2014 Fiscal Year Research-status Report
拡散効果の弱い流体における進行波形態の安定性による特徴づけ
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26800076
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大縄 将史 早稲田大学, 重点領域研究機構, 研究助手 (10443243)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 進行波 / 分岐 / 対流 / 弱い拡散 / 安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は輻射効果を含む気体力学のモデル方程式(Hamerモデル)における進行波の形態(ショックがある程度強くなると不連続になる)の違いをL∞位相での安定性の観点から説明することを目標とするものである.応募時に提出中であった論文(後述の論文[1])において,すべての劣臨界進行波は十分小さい摂動に対して安定であり,臨界進行波には任意に小さい摂動で爆発に至らしめるものが存在することを示していたが,これは過去のL1位相での安定性がすべての強さのショックに対して一様に成り立ち,L∞位相では劣臨界進行波の一部についてしか結果が得られていなかった状況を大きく前進させるものである.さらにレフェリーからの質問に答える形で,過去に川島-西畑(1999)で得られていた爆発についての条件が最良であることも応募後に示すことができた.また,初期値が複数の不連続を含むときには,それらが分離したまま個々の不連続量が小さくなる場合と,その内のいくつかが合体し,その後も解が延長されて進行波解へ収束する場合があることを示した.これらは粘性Burgers方程式など通常の拡散を含む方程式には見られない著しい特徴であり,海洋中における密度の層や界面の消長に類似している点で,今後新たな研究展開を期待させる結果である.さらに,優臨界進行波の安定性に関しても計画通りの結果が得られた.具体的には,すべての優臨界進行波は奇関数の十分小さい摂動に対してL∞位相で安定であり,奇関数とは限らない摂動に対してもショックが十分に強ければ安定であることを示した.連続なプロファイルを持つ臨界進行波の結果と合わせると,劣臨界から臨界に至っていったん失った安定性を,優臨界進行波で不連続を持つことで回復するものだと見ることができる.このような描像は斬新であり,不連続な進行波を持つ他の系においても現象の理解の手がかりを与えることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究申請書の初年度の予定通り,優臨界進行波の奇関数とは限らない摂動に対する安定性を示すことができた.この場合には不連続の位置が一定ではなく,それに伴って基準とする収束先の進行波も移動させるために,内部領域と境界(不連続)の相互作用が生じる.この処理の方法が,やはり同じく双曲型-楕円型連立系に分類されるプラズマの境界に電荷が蓄積する場合の定常解の安定性の証明(後述の論文[3])に活かすことができた.一方で,初年度に計画していた臨界進行波への不連続な初期値からの一様収束の問題は未解決のまま残されている.このときは勾配の下限が進行波の勾配の下限の-1/2を下回る場合を扱うことが不可欠であるが,劣臨界・臨界のいずれの場合でも勾配の下限が-1より大であれば進行波に一様収束する場合があることを見出した(論文[1])ことが大きな手掛かりになると期待される.これは当初予想していなかった結果で,従来知られていた川島-西畑(1999)による初期値の勾配の下限が-1より小であれば必ず爆発するという結果が最良であることを示す重要なものである.以上の観点から,初年度の達成度はおおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
臨界進行波に不連続な初期摂動を与えた場合に進行波に一様収束することを示すため,優臨界進行波の場合と同じく,摂動を区分的にH2空間の元に設定する.進行波の中心点から遠く,安定化機構が十分に働く領域から進行波の中心点まで運ばれるのに要する時間は不連続量に反比例するオーダーである.しかし優臨界進行波と違って収束先が連続であるため,一様位相で収束が近づくとその時間が長くなりその間に摂動が成長することが問題である.そこで優臨界進行波の漸近安定性の証明を精密化する.具体的には,進行波中心近くでのH2ノルムの成長率,その付近を通過するのに要する時間,不連続量の時間発展を特性曲線法による一階微分の評価なども交え,摂動が奇関数の場合から始めて一般の小さな摂動の場合に拡張する.この時に,今年度テストプログラムを開発してきた数値計算を本格的に稼働して高精度に計算して証明の筋道を予測するのに援用する. 本年度はさらに連続な初期値から出発して解が爆発(一階微分が-∞に発散)してその後区分的に滑らかな解になることを示すことに着手する.f=‐u_xとすると,df/dt=f*f+f*exp(-|x|)/2‐f(左辺はLagrange微分)であり,藤田型方程式に類似した形をもつ.そこで現在,藤田型方程式における不完全爆発の研究の経過をたどっており,今後もそれを継続していく.藤田型方程式との違いは,本問題では拡散が弱くかつ空間1次元であることで,移流項の存在が爆発後の正則化に寄与していると推測している.この試みがうまくいかない場合の備えとして他の不連続進行波の安定性をHamerモデルと同様の機構から説明することを想定している.特に本モデルと近縁の飽和拡散型Burgers方程式は勾配が急な場合の拡散の限界を含意する重要なモデルであるが,不連続進行波の存在すら数値計算で予測されるに留まっており,その解析は意義深い.
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Causes of Carryover |
年度半ば以降に30数万円程度の計算機を購入する予定であったが,年度途中で2015年度から他大学に移ることが決まったので,計算機の購入を2015年度に先延ばしすることで,計算機の運搬に伴う損傷のリスクや余分な出費を回避することとしたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に計算機を購入し,「今後の研究の推進方策」で述べたように証明の見通しをつけるために数値計算を援用する予定である.
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