2016 Fiscal Year Research-status Report
硬X線およびガンマ線を用いた星形成領域における宇宙線加速と伝播の研究
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26800160
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
林 克洋 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (40713863)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ガスの柱密度 / ガンマ線 / 宇宙線密度 / 星形成領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主にFermi衛星を用いた太陽系近傍のガンマ線解析を実施した。カメレオン座分子雲領域について、プランク衛星によって得られたダストの光学的厚さをベースに、トータルのガスの柱密度モデルを構築し、宇宙線とガスの核子相互作用によって生じるガンマ線強度との相関を見たところ、その柱密度が光学的厚さのおよそ1/1.3乗程度のべき関数で表せることを見出した。 一般にガス-ダスト比は一次の線形直線でモデル化される。最近の星間ガスの研究で明らかにされた太陽系数100パーセクにおける光学的に厚い水素原子ガスの存在も、その仮定に基づく結果であった。一方で、分子雲の中心領域に対してガス-ダスト比が非線形な関係をもつ結果も示唆されていた。本年度は、カメレオン座分子雲領域に着目し、光学的に厚い水素原子ガスの存在をベースに、ダストの光学的厚さに対して線形・非線形の関係をもつ複数のガスの柱密度のモデルをたて、宇宙線とガスの相互作用によって生じるガンマ線強度との相関を綿密に調査した。その結果ガンマ線強度分布は、光学的厚さの1/1.3乗程度の非線形関数で表された柱密度で最もよく再現できるこが分かった。この非線形な関係は、分子雲とその周辺のダストの進化の度合いを反映した結果であると考えている。一方ガンマ線解析の結果得られた宇宙線スペクトルは、従来の解析方法によって得られてきたそれと系統誤差の範囲で一致した。この結果は、光学的に厚い水素原子ガスの存在を考慮した上での初めての宇宙線スペクトルの導出であり、今後の他の領域の解析を通じて、さらに正確な太陽系近傍領域の宇宙線分布の測定を期待させる。一方で光学的に厚い水素原子ガスは、原子/分子ガスの観測ではトレースが難しく組成の未解明な「ダークガス」を説明可能とするものであり、本研究によるガンマ線解析が星間ガス研究の観点でも重要な結果を導く可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最適なガスのモデルの構築(i)と、ガスからのガンマ線の寄与を背景のバックグランド放射と切り分け(ii)るのが解析を困難にさせている。(i)について: ガスの柱密度の大きさは、線形・非線形に関与する冪の大きさだけでなく、ダストの光学的厚さと柱密度との関係を無次元化するのに必要な係数にも強く依存する。その結果は、宇宙線密度や分子ガスの量を推定するのに必要なXファクターの大きさにも直接影響を与えるため、考えられる系統誤差の範囲を考慮し、的確な係数値を選択する必要がある。(ii)について:拡がったガンマ線のバックグラウンド源としては、検出器や系外銀河由来と考えられる一様放射成分と、宇宙線電子と星間光子の相互作用による逆コンプトン散乱の寄与がある。カメレオン座領域においては、特にそのうちの前者が、ガンマ線解析の際に、分子雲周辺の薄く広がったガス成分との切り分けを困難にしている。本研究のような拡散ガンマ線の解析では、未だ未解明な点が多いこのバックグラウンド放射の寄与を見積もることも重要な研究対象の一つであり、特定のモデルに頼らずに、既存のデータから、観測的に制限をかけていくことが最適なガスのモデルを見出すのに必要な条件である。想定される系統誤差の範囲を見積もり、的確にバックグラウンド放射との切り分けを行なっていくことが求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
ガスの柱密度を推定する際に必要な係数についての考察は、想定される系統誤差の範囲での的確な見積もりが既に終了している。バックグラウンド放射との切り分けについては、分子雲中心領域とその周辺とで領域を区分し、ガスからのガンマ線の寄与とカップルが起きない範囲で、バックグラウンド放射の寄与を見積もり、正確な系統誤差を評価を行う。今年度の丁重な解析作業を通じて、本研究に対する大筋の結果は既に得られており、論文化に向けてのストーリーも確立している。このバックグラウンドによる系統誤差の見積もりを反映させ、迅速な論文投稿を目指す。 カメレオン座領域における結果が確立できれば、ペルセウス、オリオン、ポラリス領域など、他の太陽系近傍領域の解析に着手する。柱密度とダストの光学的厚さの間にみられた非線形な関係が、ダストの進化過程を表しているとすれば、冪の違いが星形成の進化の度合と相関する可能性も考えられる。一方で光学的に厚い分子雲の存在にもとづいた、領域ごとの宇宙線スペクトルの比較が可能になり、宇宙線密度の違いや冪の違いが見えてくる可能性もある。また、光学的に厚い水素原子ガスの存在は、一般に分子ガスのトレーサーとされる一酸化炭素で暗い分子ガスの存在や、原子ガスから分子ガスへの相転移現場、すなわち「ダークガス」の起源に対して重要な示唆を与えるものと期待される。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Study of the polarimetric performance of a Si/CdTe semiconductor Compton camera for the Hitomi satellite2016
Author(s)
J. Katsuta, I. Edahiro, S. Watanabe, H. Odaka, Y. Uchida, N. Uchida, T. Mizuno, Y. Fukazawa, K. Hayashi, S. Habata, and Y. Ichinohe
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Journal Title
Nuclear Instruments and Methods
Volume: 840
Pages: 51-58
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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