2016 Fiscal Year Research-status Report
空間情報の処理を担う神経ネットワークの動作原理の解明
Project/Area Number |
26830006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
豊島 有 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10632341)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | システム生物学 / モデル化とシミュレーション / ライブイメージング / 神経情報処理 / 線虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
線虫は特定の塩濃度の領域へ向かう性質があり、進行方向および垂直方向の塩濃度勾配に対してそれぞれピルエット機構と風見鶏機構という異なる行動戦略を用いている。その際神経ネットワークにおいては塩濃度勾配の方向の情報が時間的に多重にコードされていると考えられる。本研究では、多重にコードされた空間情報を分離・抽出する機構を同定し、その動作原理の解明を目指している。本年度は特に<1. カルシウムイメージングによる神経細胞の活性測定>と<2. 実験データに基づいた数理モデルの作成>について研究を進めた。 <1.>については、4Dイメージング画像の解析プログラムを改良し、論文として発表した。この方法により、塩濃度勾配の情報を処理している神経を含む、線虫頭部の中枢神経群について同時にCa2+レベルを測定できるようになり、これらの神経群が線虫の動きと同期した自発的活動を示すことがわかった。この自発的活動は外部刺激による神経活動を覆い隠すほど強く、また広範囲に渡っていた。外部刺激に依存した神経活動を抽出するためには、多数の個体を観察して比較し、自発的活動を除外する必要があるので、個体間の比較に必要な、細胞の対応付け(同定)のための技術開発と線虫株の作成を進めている。 <2.>については、塩濃度刺激とその受容神経の応答の関係について、通常用いるステップ状の刺激と、ランダムな刺激を与えて応答を測定したところ、後者のほうが予測性能が高いモデルを作成できることがわかった。この方法によって、塩を受容する神経の応答を様々な濃度範囲で予測できる数理モデルを作成することに成功した。また、単一神経の活動と線虫の行動とを同時に測定できるトラッキングステージ付き蛍光顕微鏡によって、塩濃度刺激時の神経活動と行動の同時測定データが得られたので、ARXモデルを用いて解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の<1.カルシウムイメージングによる神経細胞の活動測定>に際して、4Dイメージング法により得られた画像データを解析するためのプログラムの作成と改良を進め、論文として発表した。この方法により、線虫頭部のほぼすべての中枢神経の活動を同時に測定できるようになった。また当初想定していなかった強い自発的活動が見つかったことは、神経回路の情報処理に新たな視点を与える成果であるといえる。一方、異なる周期の刺激を与えて各神経の応答を調べる方法が当初計画に含まれているが、強い自発的活動の存在下では解析が困難であると予想されるため、再検討が必要である。 <2. 実験データに基づいた数理モデルの作成>では、塩濃度刺激と感覚神経の活動の関係を実験データに基づいて数理モデル化することができた。さらに下流の介在神経と行動についても数理モデル化を進めている。将来的にはこれらを組み合わせることで、刺激の受容から行動に至るまでの包括的な数理モデルが作成できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き<1. カルシウムイメージングによる神経細胞の活性測定>を行い、加えて<2. 実験データに基づいた数理モデルの作成>と<3. 数理モデルの解析と動的特性の検証>を行う予定である。 <1.>に関しては、親和性および応答速度の点で改良が進む蛍光プローブを導入しつつ、4D イメージング観察技術を積極的に活用し、より多くの神経活動の測定を進める。また、自発活動と刺激依存的な活動をうまく分離するため、個体間での細胞の対応付けを目指す。 <2.>に関しては、感覚神経や介在神経の応答、および行動の測定の進捗に合わせて、実験データを再現できるような数理モデルの作成をさらに進める。また、数理モデル側で自発的活動と刺激依存的な活動をうまく分離できないか検討する。 <3.>については、前項を通じて、塩濃度勾配の情報を処理する神経回路の動的特性が見いだせた場合にはその検証が可能か検討する。
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Causes of Carryover |
研究の進展に伴い、当初オプションとして想定していた4Dイメージング観察技術の有効性が確認されたが、当該顕微鏡は現在遠方の共同研究先(九州大学)に設置されているため、実験条件の変更や例数を増やすことは困難である。現在、新たな4Dイメージング観察装置の開発を共同で進めており、次年度以降も開発を行いつつ、共同利用購入して東京大学に設置する予定であるため、次年度使用額を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述のとおり、本研究で利用する4Dイメージング観察装置を共同利用購入し、東京大学に設置するために使用する予定である。
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Research Products
(23 results)
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[Presentation] 線虫の全脳活動データに対する位相解析2017
Author(s)
岩崎唯史, 寺本孝行, 大江紗, 徳永旭将, 広瀬修, Stephen Wu, 豊島有, ジャンムンソン, 吉田亮, 飯野雄一, 石原健
Organizer
日本物理学会 第72回年次大会
Place of Presentation
大阪大学 豊中キャンパス (大阪府豊中市)
Year and Date
2017-03-17 – 2017-03-20
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[Presentation] 線虫のwhole-brainイメージングデータに関する位相同期解析2016
Author(s)
岩崎唯史, 寺本孝行, 大江紗, 徳永旭将, 広瀬修, Stephen Wu, 豊島有, ジャンムンソン, 吉田亮, 飯野雄一, 石原健
Organizer
第54回日本生物物理学会大会
Place of Presentation
つくば国際会議場(茨城県つくば市)
Year and Date
2016-11-25 – 2016-11-27
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[Presentation] A machine learning pipeline for whole brain imaging of Caenorhabditis elegans: cell tracking, quantification, annotation and visualization2016
Author(s)
Stephen Wu , 徳永 旭将, 広瀬 修, 豊島 有, 寺本 孝行, 石原 健, 飯野 雄一, 吉田 亮
Organizer
BioImage Informatics Conference 2016
Place of Presentation
Breakthrough & Discovery Theatrette, Biopolis, Singapore
Year and Date
2016-10-10 – 2016-10-12
Int'l Joint Research
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[Presentation] 全脳イメージングの自動解析に向けた要素技術について2016
Author(s)
豊島 有, 徳永 旭将, 広瀬 修, 寺本 孝行, Jang Moon-Sun, 久下 小百合, 石原 健, 吉田亮, 飯野 雄一
Organizer
第5回生命医薬情報学連合大会(IIBMP2016)
Place of Presentation
東京国際交流館プラザ平成(東京都江東区)
Year and Date
2016-09-29 – 2016-10-01
Invited
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[Presentation] 全脳イメージングの自動解析に向けた要素技術について2016
Author(s)
豊島 有, 徳永 旭将, 広瀬 修, 寺本 孝行, Jang Moon-Sun, 久下 小百合, 石原 健, 吉田亮, 飯野 雄一
Organizer
バイオイメージインフォマティクスワークショップ2016
Place of Presentation
大阪大学吹田キャンパス(大阪府吹田市)
Year and Date
2016-06-22 – 2016-06-23
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