2014 Fiscal Year Research-status Report
Tie1細胞外ドメインによる腫瘍血管新生の制御機構の解明
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26830072
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山川 大史 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員(常勤) (20631097)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 腫瘍血管新生 / 抗腫瘍効果 / Tie1 |
Outline of Annual Research Achievements |
血管新生刺激で産生されるTie1細胞外ドメインが血管数の減少を伴う腫瘍縮小効果に関与することを明らかにし、その作用機序の解明を目的として本研究を実施した。 血管新生を抑制するTie1細胞外ドメインの標的細胞を同定するため、Tie1細胞外ドメインを遺伝子導入した癌細胞の増殖能試験ならびに可溶性リコンビナントTie1タンパク質を用いた、血管内皮細胞への添加実験を行った。本法により、Tie1細胞外ドメインが癌細胞の増殖には影響しないこと、血管内皮細胞の増殖や管腔形成を抑制することを明らかにした。このことはTie1細胞外ドメインが腫瘍を構成する様々な細胞群の中で血管内皮細胞に直接的に作用し、血管新生を抑制することを意味する重要な成果である。 また、Tie1細胞外ドメイン切断の生物学的な意義を調べるために、Tie1細胞外ドメインの切断部位を欠失させた遺伝子改変マウスを作製した。免疫組織化学染色を用いた各種臓器血管の構造的変化の解析において、Tie1欠失変異マウスは野生型マウスとほとんど差が認められなかった。しかし、マウス背部皮下に形成させた腫瘍内血管を比較するとTie1欠失変異マウスにおいて血管密度の増加と腫瘍径の拡大が生じていることを明らかにした。 以上より、Tie1細胞外ドメインの切断は腫瘍血管特異的に機能があり、さらに切断されたTie1細胞外ドメインは腫瘍血管内皮細胞に直接的に抗血管新生作用を示すことから、本研究によるTie1細胞外ドメインを用いた副作用の少ない抗がん治療の確立への基礎が示されてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Tie1細胞外ドメインの作用機序に関して、以下研究1~3を計画し、実施した。 研究1:Tie1細胞外ドメインの標的細胞を探索した。Tie1細胞外ドメインの抗腫瘍効果には、血管数の減少が伴うことから、血管内皮細胞への直接作用を最初に調べた。Tie1細胞外ドメインの投与は内皮細胞の増殖抑制、管腔形成抑制に寄与することが明らかとなった。また、Tie1細胞外ドメインは癌細胞自体の増殖にも影響を及ぼさなかったことから、Tie1細胞外ドメインによる抗血管新生作用は血管内皮細胞への直接的な効果であることを明らかにできた。 研究3:生体内でのTie1細胞外ドメイン切断の生理的意義を明らかにすることを目的とし、Tie1のマトリックスメタロプロテアーゼによる切断部位を欠失させた遺伝子改変マウスの作製を行い、予定より半年早く本マウスの樹立に成功した。そのため、当初の予定を繰り上げて、本マウスの解析を進めた。血管の免疫組織化学染色の解析から、本マウスは成体組織の血管構造にはほとんど影響を及ぼさなかった。また、血管新生の盛んな新生児期網膜の血管においても野生型とほとんど差がなかった。そこで、次に皮下に腫瘍を移植し、腫瘍血管新生についての解析を行った。すると、本マウスにおいて野生型に比べ血管の密度が増加し、さらに腫瘍径の拡大が認められた。 研究2:研究3が予想より早くマウスの作製が可能となり実験に着手できたため、研究2として計画していたTie1細胞外ドメインの結合蛋白の同定の実験にはまだ着手できていない。研究3の進行状況を差し引きして、おおむね順調という自己評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究1で明らかにしたTie1細胞外ドメインの血管内皮細胞への作用に注目した研究を進める。 研究1では引き続き、Tie1細胞外ドメインが血管内皮細胞の増殖や管腔形成をどのような機序で抑制に機能しているかの詳細を明らかにしていく。また、腫瘍血管新生に貢献するとされているマクロファージへの作用も確認する。 研究2として計画していたTie1細胞外ドメインの結合蛋白の探索については、Tie1細胞外ドメインの作用が確認された血管内皮細胞を用い、結合蛋白を免疫沈降法を用いて分離し、質量分析を用いて同定する方法あるいはTie1細胞外ドメインに含まれるアミノ酸配列のin silico解析から結合蛋白を類推し、実際に免疫沈降による直接的な結合を確認する。結合蛋白が同定された場合、その蛋白の欠失させた細胞を樹立し、Tie1細胞外ドメインによる作用が生じないことを証明する。 研究3としては、Tie1欠失変異マウスの腫瘍血管に野生型とは異なる表現系がえられたことから、その変化がTie1のシグナル異常が原因なのか、あるいは今回注目しているTie1細胞外ドメインの産生が抑えられたことが原因なのかを腫瘍血管内皮細胞の分離・回収し、フローサイトメトリーやウエスタンブロッティング法を用いて細胞内シグナルを、リアルタイムPCRを用いて遺伝子発現の変化を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
研究2として計画していたTie1細胞外ドメインの結合蛋白の探索の着手に遅れが生じたため、本実験に必要となる抗体や細胞培養試薬類の購入分が次年度使用額として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は特に血管内皮細胞を用いたin vitro実験を多く行う必要があり、培養細胞やその維持に必要となる培養関連試薬・器具、さらには結合蛋白の探索に必要となる抗体や質量分析のための費用が必要となる。また、Tie1欠失変異マウスの維持費用や対照となる野生型マウスの購入が必要となる。 さらに、得られた研究成果を広く公表するため、また情報収集のための国内外の学会参加費・旅費も申請している。
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Research Products
(2 results)