2015 Fiscal Year Research-status Report
トルコ農村部における社会慣習の変容と女性労働参加・農家行動に関する経済学的研究
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26850147
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
丸 健 一橋大学, 経済研究所, 講師 (10721649)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トルコ / 女性労働参加 / 社会慣習 / 意識形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
経済学分野では社会慣習は家計内資源配分におけるジェンダー差別発生要因の一つとして取り上げられるが,社会慣習を中心問題として扱い,メカニズムを定量的に分析した研究は限られる.本研究課題は,トルコ農村部を事例に,社会慣習の変容と社会慣習が農家行動・家計内意思決定メカニズム,特に女性労働参加に及ぼす影響を経済学的に研究することを目的とする. 平成27年度は,平成26年度にトルコ共和国アダナ県にておこなった現地調査結果や研究課題遂行中に得られた知見を踏まえた論文3本を刊行した(平成28年度刊行分含む). 「社会慣習形成要因に関する分析」に関する論文では慣習と農家意識の形成との関連に着目し,(1)慣習に変化を及ぼしうる外的刺激に対する社会の反応度を示す社会慣習であろう「村の閉鎖性」に差が発生する要因として村の成員の均質度や成立過程が考えられる,(2)女性労働慣習に関する農家家長の意識は閉鎖性が高い村では経済的要因からの影響を受けて意識が変化しにくい,という結果を得た.また女性への教育が女性労働参加率向上のために有効な施策であることを示した点で,政策決定上有意義な判断材料を提供したと考えられる. 「社会慣習が農家行動・家計内意思決定メカニズムに及ぼす影響に関する分析」に関する論文では,社会慣習が女性労働参加を抑制する理論モデルを構築し,外的要因が生産環境・女性労働参加に及ぼす影響が社会慣習の存在によって変化しうることをシミュレーション分析により明らかにし,この種の分析をおこなう際には社会慣習を考慮することが重要であることを示した. この他,調査を基にした派生研究として,社会慣習の形成に影響を及ぼすと思われる,農家・農業労働者の持つ社会ネットワークに関する研究をおこない,仲介者が農業労働市場活性化に重要な役割を果たしていることを明らかにした.この研究は論文として平成28年4月に刊行した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の目的達成のために重要な家計調査の進捗状況については,現地情勢が悪化傾向にあったため,平成27年度の現地調査は中止となった.ただし,事前に平成27年度におこなう予定であった「社会慣習形成要因に関する分析」(調査データを用いた分析)を平成26年度におこなっていたので,平成26年度でおこなう予定であった「統計資料による分析」を平成27年度に回して対応した. この「統計資料による分析」に関しては,平成28年1月にTurkish Demographic and Health Survey (TDHS)の最新版である2013年の調査結果を新たに入手した.TDHSは2003年と2008年のものを事前に入手していたが,2008年の結果では社会慣習に関する変数に大きな変更が加わっていたため,分析結果が順当であるか判断が難しかった.TDHS 2013である程度の興味深い傾向が得られており,平成28年度前半には成果として公表していくことが可能であると考えられる. 研究成果の公表という意味では「社会慣習形成要因に関する分析」に関して,農村・家計調査で得られた結果・知見を踏まえた研究をおこない,査読付論文として学会誌にて刊行した.この他,本研究課題の計画時には含まれていなかった派生研究もおこない,平成28年4月に査読付論文として刊行した.「社会慣習が農家行動・家計内意思決定メカニズムに及ぼす影響に関する分析」に関しては,本研究課題を遂行する過程で得られた知見を踏まえた研究を査読付論文として学会誌にて刊行した.なお,この論文は本研究課題開始前に開始していた分析であり,本研究課題における当該分析のベースとなるものである.平成28年度には家計区分をより細かく設定した分析を予定しているが,当該分析の核となる結果は研究課題遂行中に得られた知見を踏まえた当該論文にて得られたといえる.全体としての研究達成度という意味では,3本の査読付論文を公表した点を踏まえると順調に計画は進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では,平成28年度は引き続き現地調査をおこない,それを基に研究課題に沿った分析をおこなう予定である.しかし,シリア情勢の問題から現地調査遂行の可否を慎重に判断する必要がある.現地のカウンターパートからは,平成26年度に調査をおこなったアダナ県は情勢が安定しているとの情報を得ているため,平成28年度は,現地調査に関して安全を第一に考慮に入れて検討をおこない,可能であれば調査を実施することとする. 分析面では,まず「統計資料による分析」を成果として公表することを計画している.平成28年1月に最新の統計データを入手することができたので,平成26年度の調査結果で得られた知見も加えてより多くの時間を分析に投入することで,研究課題構想時の想定より成果公表のレベルを高めて,海外ジャーナルへの投稿を目標とする.また,調査結果を利用した研究としては,「社会慣習が農家行動・家計内意思決定メカニズムに及ぼす影響に関する分析」において平成27年度に刊行した論文を発展させた研究をおこなう予定である. 加えて,平成26年度末に開催された国内学会において報告した際,会場から理論的側面からのコメントを受けた.この点について今までの理論枠組みとは別の理論枠組みによる更なる分析をおこなうことで研究課題に対する理解をより深められる可能性が考えられる.実施計画にある他の分析との時間的兼ね合いもあるが,将来的な研究課題への発展可能性も踏まえて新たな理論枠組みからの分析の可能性を調査し,得られた結果を適宜現在の研究課題に反映させることとする.
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Causes of Carryover |
現地情勢の悪化により平成27年度の現地調査を中止したため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は調査をおこなう計画であるので,その費用として利用する.また,可能であれば成果の公表(オープンアクセス)のために利用することも想定している.
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Research Products
(4 results)