2014 Fiscal Year Research-status Report
深海由来の新奇セルロース分解菌が生産するセルラーゼの特異性を探る
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26850226
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
内村 康祐 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 技術副主事 (70416006)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | セルラーゼ / 深海 |
Outline of Annual Research Achievements |
深海環境で進化したセルラーゼの特異的性質に関する基礎的知見を取得する事を研究目的とする。本年は深海由来の難培養性の細菌であるGE09株及びTYM08株のドラフトーケンス及びそのシーケンスの精査を行った。その結果、セルラーゼファミリーの酵素であるGH5及びGH9ファミリーのエンドグルカナーゼ、GH6及びGH9ファミリーのセロビオハイドロラーゼをコードする遺伝子を共に複数発見した。これらはどれも既知のセルラーゼと比較して相同性が低く高い新規性が予想された。 特に特徴的な配列を保持する事が明らかになったGE09株について詳細な解析を行った。その結果、いくつかのセルラーゼはセルロース分解において重要な役割を果たす触媒部位のアミノ酸であるアスパラギン酸残基がグリシンやアスパラギンに置換されていることが確認された。また1つの酵素はN末側にセルラーゼには報告の無い機能ドメインを保持している可能性が詳細な構造予測の結果から示唆された。 得られた配列情報を元に遺伝子組換えによるGE09株のセルラーゼの大量発現を試みた。その結果、コールドショック発現系を用いる事により可溶性タンパク質として上述の新規機能ドメインを保持する酵素を含めた2種のセルラーゼの発現に成功した。 発現酵素の機能解析からこれらの酵素は10℃以下から活性を保持し25℃前後で最適反応温度を有するが30℃程度までしか酵素機能を保持する事ができない、低温酵素であることが明らかになった。また、ある程度の濃度までは塩依存的に活性の増加が認められ、NaClやKClなど2%最終濃度において塩を含まない条件と比較して比活性の上昇が確認された。さらにpH7から8前後が最適pHであった。これらの実験結果から、低温及び海水中という深海環境類似条件におけるセルラーゼ活性が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドラフトシーケンスの解析及びシーケンスの精査を予定通り実施した。その結果、新規性の高いセルラーゼと予想される多くの遺伝子の取得に成功した。 得られた配列を元に遺伝子及び構造の予測を予定通り実施した。複数の遺伝子について、酵素活性において最も重要で保存性が求められる触媒ドメインのプロトンドナーであるアスパラギン酸残基がグリシンやアスパラギンへの置換が認められた事から活性を保持している可能性が低いという結果が得られた。しかし他の酵素の中に極めて特徴的な機能ドメインと示唆される配列も見つかった事から深海環境で進化したセルラーゼの特異的性質に関する基礎的知見を取得する目的は十分に達成できると考えている。 得られた遺伝子を元に遺伝子組換え発現による酵素の大量取得を試みた。しかし一般的に用いられる大腸菌を用いたT7系の発現系では実験対象の全てが未発現もしくはインクルージョンボディを形成する事が明らかになり詳細な解析に至らなかった。しかし、コールドショック発現系を用いる事によりセルラーゼ活性を保持した可溶性タンパク質の発現に成功した。 組換え酵素を粗精製した後にキャラクタリゼーションを実施した結果、低温で高い塩濃度中で最も高い活性が得られた事から、深海という環境を考えた場合において最もリーズナブルな性質がまず確認できたと考えている。 当初の予定では既知の配列から相同性が認められるセルラーゼを予測して実験を行った場合、新規性の高い特異的なセルラーゼの発見そのものが困難なのではないかと考え、pUC18などを用いてショットガン法にてセルラーゼ発現株を取得しようと考えていた。しかし発現実験にてインクルージョンボディ形成が大きな問題となった事からこの方法は困難と予想され実施しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
深海環境で進化したセルラーゼの特異的性質に関する基礎的知見を取得する事を引き続き研究目的とする。平成26年度に引き続き、組換え酵素の取得及び精製さらなるキャラクタリゼーションを実施する。これによって生化学的な特異的性質の一旦のさらなる解明を目指す。 当初の計画では予備検討で明らかになった機能未知ながら結晶性セルロースと混合すると塩依存的にセルロース表明への親和性が示唆された配列をターゲットに部位特異的変異導入などを用いて結合に必要なアミノ酸の同定を目指す予定であった。しかしながらGE09株のセロビオハイドロラーゼのN末側にこれまでセルラーゼでは全く報告の無い機能ドメインを保持している可能性が、詳細な構造予測の結果から明らかになったことからこれをターゲットとする。具体的には各種の海洋性物質との相互作用の分析、部位特異的変異導入を用いての作用に必須なアミノ酸の同定を目指す。これによってより分子生物学的知見の取得を目指す。 また複数の遺伝子について、酵素活性において重要な触媒ドメインのプロトンドナーであるアスパラギン酸残基の置換が認められた事からセルラーゼ活性を保持している可能性が低いという結果が得られた。しかし極めて新規性の高い触媒ドメインの構造である可能性も否定はできない。そこでこの酵素についても発現及び酵素活性の有無などの確認を行う。また仮にセルラーゼ活性が確認できた酵素については上述の実験と同様に部位特異的変異導入を用いて触媒残基の同定を目指す。
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Causes of Carryover |
新規性の高い特異的なセルラーゼの発見のために、pUC18などを用いてショットガン法にてセルラーゼ発現株を取得する計画であった。しかし研究結果から大腸菌発現系のインクルージョンボディ形成が大きな問題となった事からこの方法は困難と予想され実施しなかった。そのため組換え株の液体培養に必要と考えていた機器及び遺伝子試薬の一部に関して導入を見合わせた。さらに多量の酵素精製に利用予定であった機器も同様に見合わせた。 またそれに伴い学会参加も1回だけとなり旅費等についても未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
セルラーゼ遺伝子の部位特異的変異導入後の組換え株の培養に利用予定のマイクロプレートシェイカーを導入し、それに伴う部位特異的変異導入kitなども当初の計画通り購入する。また酵素精製に利用するフラクションコレクターに関しても精製が必要な酵素が今後は多様化する事から平成27年度に導入する。 その他の試薬等は当初の研究計画から若干の変更はあるが全て共通で必要な分子生物関連の遺伝子試薬、試験管や培地などの消耗品である事から平成26年に購入を見合わせたこれらの購入に充てる。
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