2015 Fiscal Year Research-status Report
発作性夜間血色素尿症(PNH)形質を利用したヒト造血幹細胞動態の解明
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26860363
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
片桐 孝和 金沢大学, 保健学系, 助教 (60621159)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 骨髄不全 / PNH形質血球 / ヒト造血幹細胞 / 造血環境 / マウス骨髄内移植 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、PNH形質血球を1つのマーカとして利用することで、造血分化の動態を明らかにすることである。これまでに末梢血中の様々な血球についてPNH形質血球の有無を解析した骨髄不全症例のうち、1系統以上の血球でPNH形質血球が陽性となったのは、約60%であった。これらについて免疫不全マウスへの移植実験を行い、骨髄および、末梢血において検出されるPNH形質血球の多様性について検討を試みた。その結果、骨髄の生着効率が低く、患者で確認された血球系統と移植後の多様性について結論付けるに至らなかった。一方、骨髄環境について、特定の血球または前駆細胞の集簇性を確認するために骨髄生検像を解析したが、骨髄内の特定空間に特定血球の集簇は認められなかった。これらの結果、ヒト造血において、その系列決定は造血幹細胞が置かれた環境に依存し、系列を決定しているという当初の予想に反する結果となった。それに対して、PNH形質血球の選択的増殖における付加的な遺伝子変異の存在を確認するため遺伝子解析を実施した結果、ある特定のサイトカインの発現が著しく亢進していることを明らかにした。従って、ヒト造血の系列は、個々の造血幹細胞または骨髄内のサイトカインを含む複合的な因子により規定されることが予測された。このサイトカインは、造血が進行するに従い発現が低下しており、造血を制御している分子の1つである可能性が考えられた。以上のように、平成27年度の研究計画通りに研究を遂行したことに加えて、造血制御の候補分子を同定することができた。加えて、これまでとは異なる新しいphenotypeを用いて、造血幹(前駆)細胞をより細分化し解析を行った。さらに、従来リンパ球として定義されているNK細胞が、骨髄球系前駆細胞由来の可能性を示唆するデータを得ることに成功し、本研究をベースにした新たな研究課題を生み出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画で、PNH形質血球陽性パターンに偏りのある症例を蓄積し、様々な造血前駆細胞ごとにPNH形質血球の分布を解析することで、造血の進行に伴いPNH形質血球の割合が増加することを明らかにした。平成27年度の計画では、このモデルを利用してヒト造血の動態を明らかにするために、免疫不全マウスへの移植実験を行った。その結果、骨髄の生着効率が低く、患者で確認された血球系統と移植後の多様性について結論付けるに至らなかった。骨髄環境について、特定の血球集団の空間的集簇性を確認するために骨髄生検像を解析したが、骨髄内の特定空間へ特定血球の集簇は認められなかった。一方、PNH形質血球の選択的増殖における付加的遺伝子変異を確認するための遺伝子解析を実施した結果、特定のサイトカインの発現が亢進していることを明らかにした。このサイトカインは、造血が進行するに従い発現が低下しており、造血を制御している分子の1つである可能性が考えられた。このサイトカイン受容体の発現について、造血分化経路を踏まえて各分画で確認したところ、非常に示唆に富むデータを得ることができた。従って、ヒト造血において、その系列決定は造血幹細胞が置かれた環境に依存する、という当初の予想とは異なる結果となったが、ヒト造血の系列は、個々の造血幹細胞または骨髄内のサイトカインを含む複合的な因子により規定されるという発展的な予測につながった。加えて、造血幹(前駆)細胞のphenotypeに関して、これまでとは異なる新しい分子を多数加え、より細分化することで各分画におけるPNH形質血球の割合を検討した。さらに、本研究の過程で、従来リンパ球として定義されているNK細胞の発生について非常に興味深いデータを得ることに成功した。平成27年度の研究計画通りに研究を遂行したことに加えて、新たにヒト造血の一端を解明する足掛かりを築いた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究を通して発展的な知見を得ることに成功した。次年度の研究では、新たに得られたデータを追及するために、以下の研究内容を推進する。 1.骨髄不全例においては、造血に寄与することなく静止期に留まっている造血幹細胞を造血に動員する必要がある。平成27年度の研究から新たに得られた知見である、造血制御に関与していると予測される、あるサイトカインとその受容体が、この動員に関与している可能性がある。特に造血に寄与していない余剰な骨髄球系前駆細胞と関係していると考えられ、これらが陽性となる分画を造血に動員することを目的に、治療抵抗性骨髄不全患者の造血改善を移植実験により再現し臨床への応用のための基礎データを構築する。 2.NK細胞の分化については、従来、未分化な造血幹細胞から分岐したリンパ球系前駆細胞に由来するという概念が定説であった。しかし平成27年度の研究により、NK細胞の分化発生は、骨髄球系前駆細胞であることを示唆するデータを得た。PNH形質血球は、健常人においても検出される血球であるため、このphenotypeを末梢血中の骨髄球系、NK細胞、T細胞以外のリンパ球系で有する例、または全血球系統でPNH形質血球を認める例のうち、PNH形質のNK細胞の割合が骨髄球系と同程度の例、或いは骨髄球系のみで有する例を選択し、移植成績を向上させたマウスへの移植実験により、PNH形質のNK細胞の発生を確認するとともに、培養系において特定のサイトカインとfeeder cellを用いてNK細胞の誘導を確認することで、骨髄不全患者のみならず、健常人におけるNK細胞の分化について解明する。 上記計画に基づいた研究を実施することで、PNH形質血球を利用した造血分化経路を明らかにし、さらに眠っている余剰な骨髄球系前駆細胞を造血に寄与させることで、治療抵抗性骨髄不全患者の造血改善に関する研究を進める。
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] Evidence That T Cells Specific for Non-Hematopoietic Cells Trigger the Development of Acquired Aplastic Anemia.2015
Author(s)
Tatsuya Imi, Hiroyuki Maruyama, Takamasa Katagiri, Yoshitaka Zaimoku, Kana Maruyama, Noriharu Nakagawa, Kohei Hosokawa, Ken Ishiyama, Hirohito Yamazaki, Koichi Kashiwase, and Shinji Nakao
Organizer
57th American Society of Hematology Annual Meeting
Place of Presentation
Orange County Convention Center (Orlando)
Year and Date
2015-12-03 – 2015-12-06
Int'l Joint Research
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