2014 Fiscal Year Research-status Report
抗菌ペプチドの発現抑制は黄色ブドウ球菌による好酸球性副鼻腔炎の誘因である
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26861415
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
倉野 香 順天堂大学, 医学部, 助教 (00514522)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 好酸球性副鼻腔炎 / 黄色ブドウ球菌 / スーパー抗原 / 抗菌ペプチド / β-デフェンシン / カテリシジ |
Outline of Annual Research Achievements |
好酸球性副鼻腔炎の病因として、黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原の関与の証拠が挙げられている。本来の生体には外的因子に対する防御因子によって細菌の排除機構が備わっており、黄色ブドウ球菌の定着が阻害されるが、好酸球性副鼻腔炎では黄色ブドウ球菌に対する排除機構が抑制・破綻されている可能性がある。そこで、好酸球性副鼻腔炎の増悪機序として、抗菌ペプチドによる防御因子の抑制に注目して鼻ポリープにおけるβ-デフェンシンとカテリシジンの機能解析を行った。鼻茸内の浸潤好酸球数100以上のものを好酸球性副鼻腔炎、100未満のものを非好酸球性副鼻腔炎と診断(臨床症状も考慮)する。コントロールとして正常の蝶形骨洞粘膜を使用して3タイプで比較検討を行った。また好酸球性副鼻腔炎患者より得た鼻ポリープ組織におけるβ-デフェンシンとカテリシジンの発現の程度を計測した。上皮組織から分泌される抗菌ペプチドの黄色ブドウ球菌の上皮細胞接着の抑制作用を実証し、好酸球性副鼻腔炎における抗菌ペプチドの防御因子としての役割を明らかにする。具体的には、①好酸球性副鼻腔炎とβ-デフェンシンとカテリシジン遺伝子と蛋白発現の関連、②好酸球炎症を惹起するサイトカイン、ケモカインによる粘膜上皮の抗菌ペプチドの応答性、③抗菌ペプチドによる黄色ブドウ球菌への上皮接着への影響を行う。外界からの黄色ブドウ球菌は鼻副鼻腔粘膜の表面上皮に接着し、内毒素に含まれるスーパー抗原の作用によって血中から好酸球を粘膜組織に動員させる。好酸球ならびに関連の各種サイトカインや活性化蛋白によって、上皮細胞や粘膜へ浸潤した炎症性細胞を刺激・活性化させ、抗菌ペプチドを分泌させる。抗菌ペプチドは表面上皮へ作用して黄色ブドウ球菌の上皮接着を抑制し、病態の悪化を抑えることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鼻副鼻腔は気道系の門戸である。つまり外界の吸気性異物(ウイルス、細菌、真菌など)が最初に暴露する臓器であり、異物除去のための種々の防御機構が構築されている。近年、難治性の鼻副鼻腔炎として、Ⅰ型アレルギーが関与しない好酸球浸潤を伴う鼻ポリープ(好酸球性副鼻腔炎)が注目されている。今回の結果から、好酸球性副鼻腔炎の病因として、黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原の関与の証拠が挙げられている。黄色ブドウ球菌由来の内毒素はスーパー抗原としての構造を有しており、Tリンパ球のクラスⅡ受容体と結合して、Tリンパ球を刺激し、Th2型の各種サイトカインを誘導して好酸球を動員するという機序が推察されあた。本来の生体には外的因子に対する防御因子によって細菌の排除機構が備わっており、黄色ブドウ球菌の定着が阻害される。従って、好酸球性副鼻腔炎では黄色ブドウ球菌に対する排除機構が抑制・破綻されている可能性が示された。 気道系の外的因子への抗菌ペプチドはβ-デフェンシンとカテリシジンが抗菌及び免疫調節作用を果たしている。上述した好酸球性副鼻腔炎における抗菌ペプチドの役割に関して、以下の結果を得た。①Th2サイトカインは鼻ポリープ由来の培養上皮細胞からの抗菌ペプチドの分泌を抑制した、②カテリシジンを誘導する活性型ビタミンDは慢性副鼻腔炎で低下している、③好酸球性副鼻腔炎の好酸球動員にeotaxinとIL-17Aが関与している、④好酸球性副鼻腔炎で認めるマスト細胞の細胞内Caの増加と生物作用の活性化がβ-デフェンシンによって生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
慢性副鼻腔炎・鼻茸は耳鼻咽喉科の日常診療において頻繁に遭遇する疾患で,鼻閉,鼻漏,嗅覚障害などの原因となり患者の生活の質(quality of life,QOL)を低下させる。従来の慢性副鼻腔炎の大部分は,細菌感染による急性炎症の反復と持続を契機として発症する化膿性副鼻腔炎であった。しかしながら、近年の慢性副鼻腔炎は好酸球性炎症による難治性の病態が注目されており、常在菌である黄色ブドウ球菌が好酸球動員の本体であるいう仮説を証明する。さらに、好酸球性副鼻腔炎における抗菌ペプチドの役割を以下の観点から研究する。①鼻ポリープにおける好酸球浸潤と抗菌ペプチド発現の関係、②鼻ポリープの好酸球動員に関連するeotaxinとIL-17Aによる抗菌ペプチド分泌、③抗菌ペプチドの鼻ポリープ上皮細胞における黄色ブドウ球菌の接着能への影響である。生命体の自然治癒を促す抗菌ペプチドの低下が好酸球性副鼻腔炎の病因の一端を荷うことが判明すると、生体にとって安全な治療薬の開発に繋がる可能性を模索する。今回の研究が新しい創薬に結びつくことによって、難治性の好酸球性副鼻腔炎による鼻汁、鼻閉、後鼻漏、嗅覚障害などの鼻症状、頭痛、頬部痛などに悩み、苦しむ数百万人の患者への大きな福音となり、国民生活の質的向上をもたらす研究成果を目指す。将来的には従来の薬物治療、手術治療とは異なる抗菌ペプチド製剤の治療法開発も念頭に置く。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況に応じ、当初購入を予定していた機器の購入を一部先送りした。また、予定していた学会への出席の予定が合わず出席を断念した学会があった為。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究を進めるにあたり、今後の高額消耗品の必要性や購入予定であった消耗品の先送りなど、一部予想困難な変動も生じ得る為、適時年度計画を見直しつつ、支出計画の確認を行い成果を上げる予定である。
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