2014 Fiscal Year Research-status Report
反差別と脱差別:現代インドの仏教組織と仏教僧佐々井による関係的差別克服の取り組み
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26870075
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
根本 達 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40575734)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 南アジア研究 / 差別論 / 宗教社会運動 / 当事者性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は人類学的な現地調査によるデータ収集を基盤とし、現代インドのマハーラーシュトラ州ナーグプル市近郊の農村で「不可触民」解放運動に取り組む仏教徒組織SBSと、ナーグプル市を活動拠点とする仏教僧佐々井秀嶺の「社会参加仏教」を比較分析するものである。 平成26年度は先行研究のレビューとともに人類学的な参与観察の手法を用いて第一次・第二次現地調査を実施した。(1)まず南アジア地域研究と文化人類学に加え、再帰的近代化論、政治学の市民社会論、差別の社会学、「当事者」研究など、学際的な視点から先行研究のレビューを行った。(2)次に第一次調査(2014年8月20日~9月14日)、第二次調査(2015年2月26日~3月13日)をナーグプル市及び近郊農村において実施した。調査時には英語、ヒンディー語、マラーティー語を使用し、現地研究者を調査補助兼通訳として雇用した。 これにより(1)第一に本研究が特に着目する差別の社会学における差別構造(差別者と被差別者の関係性)の議論、また、「当事者」研究における当事者性に関する視点への理解が深まり、本研究の分析の視点として用いることが可能な点が明らかとなった。(2)第二に仏教徒組織SBSの活動家、仏教僧佐々井、現地の研究者、一般の仏教徒へのインタビューに加え、現地で流通している資料(英語、ヒンディー語、マラーティー語)の収集を行い、インドの後期近代化やアンベードカルの宗教社会運動の影響の下で仏教徒組織SBSと佐々井の取り組みが現在の形に至った歴史的経緯を明らかにした。 また、以上の研究成果の発表として日本南アジア学会第27回全国大会において研究発表(「反差別と脱差別、今ここに存在する平等―現代インドのナーグプル市と近郊農村における仏教徒と仏教への改宗運動について―」)を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現代インドのナーグプル市及び近郊農村において活動する仏教徒組織SBSと仏教僧佐々井の「社会参加仏教」を比較分析の対象とし、学際的な先行研究のレビューと人類学的な現地調査をもとに以下の三点を明らかにする。(1)インドの後期近代化やアンベードカルの宗教社会運動からの影響を検討し、SBSと佐々井の取り組みが現在の形に至った歴史的経緯を考察する。(2)それぞれの「反差別(差別に抗する連帯の形成)」と「脱差別(差別を脱する場所の創出)」の取り組みを検証する。(3)それぞれの「反差別」と「脱差別」における思想形成と人間関係の組み換えのあり方、さらに関係的差別を克服する方策を明らかにする。 平成27年度にミクロな現地調査(研究目的(2)と(3))を実施することを踏まえ、平成26年度は(1)まず本研究の分析の視点を定めるため、南アジア地域研究、文化人類学、再帰的近代化論、市民社会論、差別の社会学、「当事者」研究など、学際的な視点から先行研究のレビューを行い、特に差別構造(差別者と被差別者の関係性)と当事者性に関する議論の有用性が明らかとなった。 (2)次に仏教徒組織SBSと仏教僧佐々井に関する歴史的背景(研究目的(1))を考察することに努めた。より具体的にはナーグプル市及び近郊農村における計1カ月半の現地調査をもとに①インドの後期近代化、②アンベードカルの宗教社会運動、②日本仏教のインド進出、④マハーラーシュトラ州における聖人信仰からの影響を考察し、仏教徒組織SBSと仏教僧佐々井それぞれの取り組みが現在の形に至った歴史的経緯を明らかにすることができた。 また本研究の成果発表として日本南アジア学会第27回全国大会において研究発表を行い、他の研究者から本研究を発展させるために有意義なコメントを受けることができた。 以上のことから現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度はナーグプル市及び近郊農村における現地調査を通じたデータ収集が中心となる。(1)平成26年度に引き続き学際的な先行研究のレビューを行いつつ、平成26年度の現地調査で得られた成果の見直しを行い、平成27年度の現地調査実施計画を練り直す。また日本のジャーナリストを中心に設立された「佐々井秀嶺資料室」の保存資料の活用を本格的に開始する。 (2)次にデータ収集のメインとなる第三次・第四次調査を実施する。調査期間は平成27年8月(3~4週間)と平成28年3月(2~3週間)に合計1カ月間半となる。平成26年度に引き続いて仏教徒組織SBSと仏教僧佐々井の「社会参加仏教」を研究対象とし、特に①それぞれの「反差別(差別に抗する連帯の形成)」と「脱差別(差別を脱する場所の創出)」の取り組み(研究目的(2))、②それぞれの「反差別」と「脱差別」における思想形成と人間関係の組み換えのあり方、さらに関係的差別を克服する方策について明らかにする(研究目的(3))。平成26年度と同様、ナーグプル市における現地調査では、現地に滞在する仏教僧佐々井と仏教徒組織SBSの支援を受けるとともに、現地の研究者に調査補助兼通訳を依頼する。 (3)年度内に学会(日本南アジア学会第28回全国大会を予定)において研究成果を発表し、他の研究者の意見を取り入れることで本研究の発展につなげる。 (4)年度末には計画の練り直しに取り組み、次年度の準備をする。現地調査において十分な情報が得られない場合など、研究が予定どおりに進まない場合には、人類学や地域研究、政治学分野の経験豊富な他の研究者に助言を求める。
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