2015 Fiscal Year Research-status Report
反差別と脱差別:現代インドの仏教組織と仏教僧佐々井による関係的差別克服の取り組み
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26870075
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
根本 達 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40575734)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 南アジア研究 / 差別論 / アンベードカル / 佐々井秀嶺 / インド仏教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は人類学的な現地調査によるデータ収集を基盤とし、現代インドのマハーラーシュトラ州ナーグプル市近郊の農村で「不可触民」解放運動に取り組む仏教徒組織SBSと、ナーグプル市を活動拠点とする仏教僧佐々井秀嶺の「社会参加仏教」を比較分析するものである。 平成27年度は(1)前年度に引き続き、学際的視点から先行研究をレビューし、本研究が特に着目する差別の社会学における差別構造の議論と「当事者」研究における当事者性の議論への理解を深めた。(2)次に平成26年度実施の第一次・第二次調査の成果の見直しに取り組み、これまでは十分に調査されていなかった点(インド人仏教僧カウサリャーヤンの取り組みや佐々井が活動家と仏教徒の媒介となっている側面)が明らかになった。(3)(1)及び(2)を踏まえ、第三次調査(2015年8月25日~2015年9月11日)・第四次調査(2016年2月28日~2016年3月16日)をナーグプル市及び近郊農村において実施した。この調査では現地研究者を調査補助兼通訳として雇用し、SBSの活動家、佐々井、現地研究者、仏教徒へのインタビューに加え、現地の資料(英語、ヒンディー語、マラーティー語)の収集を行なった。これにより第一次・第二次調査では不足していたデータに加え、さらに議論を発展させるデータ(SBSと佐々井が新たに展開するポスト・アンベードカルの運動のあり方)を手に入れることができた。 以上の研究成果の発表として、佐々井秀嶺高野山講演第二部(2015年6月14日)において「ポスト・アンベードカルの仏教徒運動―南アジアにおける暴力的対立の克服に向けて―」、また日本南アジア学会第28回全国大会(2015年9月26日)において「如何に当事者となり得るのか?―現代インドで反差別運動に取り組む仏教僧佐々井秀嶺の神話的思考について―」と題する研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現代インドのナーグプル市及び近郊農村において活動する仏教徒組織SBSと仏教僧佐々井の「社会参加仏教」を比較分析の対象とし、学際的な先行研究のレビューと人類学的な現地調査をもとに以下の三点を考察する。(1)インドの後期近代化やアンベードカルの宗教社会運動からの影響を検討し、SBSと佐々井の取り組みが現在のかたちに至った歴史的経緯を考察する。(2)それぞれの「反差別(差別に抗する連帯の形成)」と「脱差別(差別を脱する場所の創出)」の取り組みを検証する。(3)それぞれの「反差別」と「脱差別」における思想形成と人間関係の組み換えのあり方、さらに関係的差別を克服する方策を明らかにする。 平成26年度に実施された第一次・第二次調査の結果を踏まえ、上記の研究目的(2)と(3)に取り組むため、平成27年度は第三次・第四次調査を計1カ月半にわたり実施した。特にSBSと佐々井の「反差別(差別に抗する連帯の形成)」と「脱差別(差別を脱する場所の創出)」の取り組み(研究目的(2))を考察することに努めた。より具体的には①SBSによる他者から自己尊厳への承認を得る運動、②佐々井による差別に抗する運動と他者を受容する平等という矛盾する実践について考察することができた。これにより自らの手による自己尊厳の獲得にとどまらず、SBSと佐々井が新たなポスト・アンベードカルの運動を展開していることが明らかとなった。 また本研究の成果発表として佐々井秀嶺高野山講演第二部(高野山大学)及び日本南アジア学会第28回全国大会(東京大学)において研究発表を行い、他の研究者から本研究を発展させるために有意義なコメントを受けた。また現在SBSを研究対象とする論文、佐々井を主な対象とする論文をそれぞれ執筆している。以上のことから現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は前年度の現地調査の成果をレビューした後、ナーグプル市及び近郊農村における現地調査を通じたデータ収集を行う。これに加え、仏教徒組織SBSと仏教僧佐々井を主な研究対象とする論文を発表する。 (1)まず平成27年度の現地調査で得られた成果の見直しを行い、平成28年度の現地調査実施計画を練り直す。これにより研究目的・対象をより明確にする。 (2)次にナーグプル市及び近郊農村において第五次・第六次調査を実施する。調査期間は平成28年8月(3~4週間)と平成29年3月(2~3週間)に合計1カ月間半を予定している。平成27年度に引き続き、SBSと佐々井の「社会参加仏教」を研究対象とし、特にそれぞれの「反差別」と「脱差別」における思想形成と人間関係の組み換えのあり方、さらに関係的差別を克服する方策について明らかにする(研究目的(3))。平成27年度と同様、現地調査では佐々井とSBSの支援を受けるほか、現地の研究者に調査補助兼通訳を依頼する。また「佐々井秀嶺資料室」(http://www.facebook.com/sasaisiryoushitu)の保存資料を活用する。 (3)平成28年度が最終年度となることから、年度内にSBSを研究対象とする論文、佐々井を主な対象とする論文をそれぞれ発表することを目指す。平成27年1月に3名の研究者とともに「B.R.アンベードカル及びエンゲイジド・ブッディズム研究会」(http://ambedkar.blog.fc2.com/)を立ち上げ、これまでに3回の研究会を実施した。論文執筆においてはこの研究会での議論を反映する。また現地調査において十分な情報が得られない場合など、研究が予定どおりに進まない場合には研究会の他のメンバーから助言を得る。
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