2014 Fiscal Year Research-status Report
19-20世紀転換期スウェーデンにおける生活文化をめぐる諸運動と「国民教育」
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26870202
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
太田 美幸 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (20452542)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 近代教育 / 国民形成 / 日常物質文化 / 文化的景観 / スウェーデン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スウェーデンにおいて福祉国家を支える国民意識がいかにして育まれてきたのかを、福祉国家形成期以前に展開した、生活環境をつくりかえることによって国民意識の形成を目指した諸運動(インフォーマル[非定型的]な「国民教育」)の検討を通じて明らかにすることを目的としている。平成26年度は、1890年代以降に展開した諸運動のうち、農村の生活文化に見られる「スウェーデンらしさ」を称揚し伝統的な民俗文化の保護に努めた農村地域の諸運動について調査した。 1890年代には、ナショナル・ロマンティシズムの思潮を生活環境のなかで体現しようとした人々が、画集や著作、博物館の設立などを通して、昔ながらの農村生活の中に見出される伝統的な美しさを次々と称賛した。代表的な人物として、ナショナル・ロマンティシズムの中心人物の一人でスウェーデンの国民画家と呼ばれるカール・ラーションや、イギリスのウィリアム・モリスらの思想をスウェーデンに紹介し、生活環境を美化することによる社会改良を主張した社会批評家エレン・ケイ、伝統的な住居や日用品、民俗衣装などを大規模に収集し、独自の展示法による博物館を構想した民衆教育家アルトゥール・ハセリウスらがいる。ケイやハセリウスは、自らの思想を反映した教育活動にも尽力していた。平成26年度はかれらの著作を検討し、博物館等の概要についても調査した。また、ハセリウスの活動に触発されて活発化した景観保存運動や、同時期に展開したヘムスロイド運動についての文献資料を収集し、内容の検討に着手した。 8月に実施した現地調査では、北欧博物館、野外民俗博物館スカンセンなどの調査をおこなったほか、王立図書館等で資料収集をおこなった。また、ファールン市のダーラナ博物館においてダーラナ地方の郷土保護運動に関する資料を調査し、ファールン近郊のスンドボーンにあるカール・ラーション自邸を訪問した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に計画していた北欧博物館、野外民俗博物館スカンセン、およびダーラナ地方の郷土保護運動の調査は、問題なく実施することができた。また、平成27年度に予定している調査内容に深くかかわる先行研究が発表されたことにより、調査計画をより精緻化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成27年度は、同時期に展開した諸運動のうち、工業製品を積極的に受け入れながら、近代的な生活様式のなかに伝統文化をうまく取り込んでいくことを目指した都市部の諸運動について調査する。その主導者であったモダニストたちの思想は、社会民主党の「国民の家」構想と結びつき、住宅政策やデザイン政策に積極的に取り入れられた。また、民衆教育との結びつきも指摘されている。のちに世界最大規模の家具販売店に成長したIKEAの企業戦略もこの時期の文化運動の流れを汲んでおり、福祉国家形成にも密接に関わっていたことが、平成26年秋に発表された現地研究者の調査で明らかとなっている。福祉国家を支える国民意識の形成過程を解明しようとする本研究にとって、この事実はきわめて重要であるため、平成27年度はこの点についても合わせて検討することとする。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた資料について、年度内の購入手続きが間に合わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定であった資料を購入する。
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Research Products
(3 results)