2015 Fiscal Year Research-status Report
19-20世紀転換期スウェーデンにおける生活文化をめぐる諸運動と「国民教育」
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26870202
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
太田 美幸 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (20452542)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国民形成 / 日常物質文化 / 住環境 / スウェーデン / 福祉国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スウェーデンにおいて福祉国家形成期以前に展開した、生活環境をつくりかえることによって国民意識の形成を目指した諸運動(インフォーマル[非定型的]な「国民教育」)の検討を通じて、福祉国家を支える国民意識の形成過程の一端を明らかにすることを目的としている。平成27年度は、モダニズムの影響を受けながら展開された住宅政策やデザイン政策、および、その背後にあった「社会美」の思想と運動について検討した。 19世紀末以降のナショナル・ロマンティシズムの思潮のもとで形成された「社会美」思想の嚆矢として、住まいを整えることによって「美的感覚」を育成することの重要性と、それが社会形成に及ぼす多大な影響について論じたエレン・ケイの諸著作があげられる。彼女の思想については平成26年度に中心的に検討したが、平成27年度においては、こうした思想がウィリアム・モリスの思想やアーツ・アンド・クラフツ運動、ドイツ工作連盟などの影響を受けながら国民の美的感覚の涵養に関与してきたことに注目した。先行研究においては、モダニズムの精神を現実のものとすることができた唯一の国はイギリスでもドイツでもなくスウェーデンであったと指摘されており、本研究ではこれを受けて、スロイド協会、モダニストの建築家、消費生活協同組合といった諸アクターの活動と、社民党政権の住宅政策とを照らし合わせながら、「社会美」の現実化のプロセスを解明する作業をおこなった。その作業を通じて、この時期に世界各地で進行していた生活改善運動との連続性やスウェーデン独自の性格が析出され、スウェーデンの近代デザインと福祉国家体制との理念的なつながりも明らかになりつつある。 また、上記の検討作業に加えて、生活環境、とりわけ住環境が人間形成に与える影響について教育学的に考察するための分析枠組みの検討にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した調査を順調に進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成28年度は、社民党政権下における住宅政策およびデザイン政策の内実に関する調査を継続することに加えて、主に労働者階級の生活環境に多大な影響を与えたと考えられる建築や日用品について、当時の諸運動を通じていかなるデザインがどれほどの規模で生産・消費されたのか、広く出回ったデザインにいかなる思想(とりわけ人間形成の構想)が内包されていたかを、スロイド協会や消費生活協同組合のアーカイブ資料をもとに検討する。年度後半においては、これまでの研究成果を単著として出版するための作業に着手する。
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Causes of Carryover |
夏季に約2週間の現地調査を予定していたが、他の業務のために調査期間を確保することができず、10月に期間を5日間に短縮して調査をおこなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の現地調査を当初の予定より長く実施する。
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