2014 Fiscal Year Annual Research Report
批判的思考力育成の基盤をなす地理教育の理論と実践の解明
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26885048
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
広瀬 悠三 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (50739852)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | 世界市民教育 / 地理教育 / 批判的思考力 / カント / 道徳教育 / 自然地理学 / シティズンシップ教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は批判的思考力育成をめざす地理教育を明らかにするため、(1)カントの世界市民的地理教育の教材としての自然地理学の独自な特徴と、(2)世界市民的地理教育の人間形成論的意義、(3)さらには地理教育と道徳的宗教教育を、理論的に詳細に解明した。 (1)19世紀前半に成立した近代地理学の半世紀以上前に構築されたカントの自然地理学は、リンネやビュフォンも十分に果たせなかった「自然神学からの解放」を実現するとともに、一元論的目的論を基に事柄を捉える歴史学の基底に存在するものである。この自然地理学は、現実の多様で有機的な事物や事象を、細分化せずにありのままに捉えることをめざすがゆえに、現実にどこまでも肉迫し、そのような認識において世界と自分を捉え直すことを促すのである。 (2)このような自然地理学的な対象に関わることで、多様な表象を受容する感官の強度が高められ、記憶力や構想力が鍛えられるとともに、そのような豊かな表象を規則の下に概念づける悟性が十分に働くようになり、判断力を介してさらに原理の下に概念を統合する理性も十分に用いられるようになる。このような成熟した認識能力によって、人間は自らの偏見や解釈に閉じ籠ることなく、多様な視点から自らの認識や思考までも批判的に吟味することができるようになるのである。 (3)さらにこの思考は、有機体という全体とも関わっているがゆえに個人を超え、最も包括的な有機体である超越的な人類の福祉まで志向するのであり、つまり宗教性を備えた世界市民として行為することと結びつくのである。 この世界市民的地理教育の人間形成論は、地理教育の根本的な理論的基礎となるとともに、新たな総合学習を生み出す理論的支えになり、さらには現在道徳教育で盛んに論じられているシティズンシップ教育をコスモポリタン・シティズンシップ教育(世界市民教育)から根本的に問い直す視座をもたらすものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
批判的思考力育成の理論の基盤をなす、カントの世界市民的地理教育の理論は、自然地理学の内容と、人間形成論的意義の両方を解明することができた。ただし論文や学会発表はできなかったため、次年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のこれからの推進方策は以下の二点である。(1)ほぼ解明し終えた、批判的思考力の育成をめざすカントの世界市民的地理教育論を、順次論文や学会発表として発表すること、(2)理論的な世界市民的地理教育論の実践形態をドイツとイギリスの実践をもとに解明すること、である。まず(1)についてであるが、すでに文献を読み込み、解明し終えているカントの世界市民的地理教育を、学会誌等の論文として発表するために、複数の国内の所属学会や、さらに海外の学会で発表し、批判的に練り直した上で、学会誌等に発表することを試みる。その際、単にカントの世界市民的地理教育のみならず、他の関連する地理教育理論も踏まえて、本研究の意義が明確になるような形で発表する。次に(2)についてであるが、ドイツの私立・公立学校の地理教育の授業を、世界市民的地理教育の理論を基に検討し、世界市民的地理教育の実践形態を明らかにする。さらにイギリスでは、地理教育とシティズンシップ教育の結びつきを考慮に入れながら、批判的思考力育成に成功している私立・公立学校の実践を解明する。
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Research Products
(2 results)