1987 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
62440012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡部 仁 東京大学, 農学部, 助教授 (10011868)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永田 昌男 東京大学, 農学部, 助手 (70107407)
小林 正彦 東京大学, 農学部, 助手 (60162020)
吉武 成美 東京大学, 農学部, 教授 (30011810)
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Keywords | 絹糸虫類 / 家蚕 / 進化 |
Research Abstract |
家蚕を中心として絹糸虫類の進化を明らかにするには次の2段階に大別して検討するべきと思われる. 第1は自然条件下における絹糸虫類の種の分化と適応の過程であり,第2は絹糸の利用を目的として加えられてきた人為的過程であり,絹糸生産という進化の方向性が与えられた段階である. しかしこの過程の進化においても全ての変化を一義的に絹糸タンパク質の産成に結びつけることは不可能であり,飼育環境への生態的適応,絹糸生産に向けられた代謝変化を可能とする生理的適応,耐病性など二次的要因への対応など,生物としての進化,適応の原理に基づいて理解するべきものもある. 例えば,血液の主要タンパク質を数種の絹糸虫において比較した結果,芳香族アミノ酸含量の多いことで特徴づけられるアリルフォリンの類縁性は分類学上のものとほぼ一致することが血清学的に明らかとなった. アリルフォリンは鱗翅目,双翅目など完全変態の昆虫に広く分布し,変態の生理的機構に深く関与することからも,芳香族アミノ酸の高含量という点を中心に分子上の類線性が保持されてきたことが変態を経る昆虫の発育機構かり理解される. しかし,分子的レベルに比べ,生理的レベルにおいては家蚕には他にみられなに特徴が存在していた. すなわち,家蚕においては蛹への変態時に血液中のアリルフォリンはほとんど全て脂肪体に移行するのに対し,他鱗翅目にはこのような例はない. 一方,家蚕の蛹血液中には他鱗翅目昆虫にはみられない低分子タンパク質の集積がみとめられた. これらの結果は分子レベルでの相似性が必ずしも生理的レベルの相似性と一致するものでないことを示すとともに,絹糸生産とは直接関連のない変態後のタンパク伸代謝に家蚕の特徴があることを示唆している. すなわち,絹糸虫類の人為的進化の過程を明らにするには,局部的な解析でけではなく,生体のシステム全体を考慮すべきものと考えられた.
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Research Products
(1 results)