Research Abstract |
86年秋からの急速な円高を契機に, 日本経済は国際化とサービス経済化の流れに入った. 具体的には, 「産業構造調整」経済が政策的に展開され, 従来の構造不況業種である鉄鋼, 造船, 繊維, 石炭産業等は合理化, 人員整理, 規模の縮小を余儀なくされている. こうした経済情況のなかで, 雇用・失業問題が注目されている. 本研究は, 高度経済成長の前期に実施された炭鉱離職者の広域移動(労働力の流動化政策)の実態を把握し, 個々の炭鉱離職者を追跡調査することにより, 移動後の生活問題を分析するのが目的である. 産業構造の変動に伴い, 必然的に発生する労働移動の問題を, 生活の視点から究明する課題は, 今日の雇用不安の厳しさを考えれば, 重要なテーマである. 離職者への追跡調査の準備作業として, 産炭地での調査を実施した. そこで得られた知見は, 炭鉱の衰退過程と離職者の排出の統計的資料を基礎にした分析結果であるが, (1)離職年次と年齢との相関性(2)再就職の企業への集団移動のプロセス(3)離職時の職種とその後の生活適応の格差の実態であった. 現地での調査データをもとに, 本研究の成果として高橋伸一・高川正通が報告したのが「石探鉱業の盛衰と離職者対策ー筑豊・貝島炭鉱の事例研究」(佛教大学社会学研究所紀要第8号, 1987年)である. さらに, 産炭地での調査・文献収集活動と並行して, 関西, 中部, 関東に居住する離職者への面接調査を実施した. 炭鉱閉山, 離職からすでに20年以上の時が流れており, 対象者は移動を重ね相当の高年齢化しており, 調査は予想以上の困難をともなった. 現在, この調査は続行中であり, まだまとまった知見を展開できない. ただ, 離職時の年齢・家族構成・学歴等の条件により, その後の生活展開に大きな開きが生じていることが調査過程で得られた実感である.
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