Research Abstract |
本年度は, 子どもの持つ誤り方略の解明に力点を置いた. 対象とした子どもは, 小学3, 4, 5年生合計619名であった. 彼らに分数単元が始まる約2ケ月前に事前テストをおこなった. テスト内容としては, 分数の大きさ, 全体としての1の概念, 分数における等分割, 分数の大きさの作図, および計算であった. ここでは, 分数の大きさについてのみ述べることにする. 事前テストで, 分数の大きさを正確に理解している子どもは, 3年では91%, 4年では28%, 5年では34%であった. 3年できわめて正答率が高いのは, 彼らが分数をまだ学習する以前なので, 問題が整数的に構成されたことによるのであろう. 4年と5年の残りの子どものほとんどは, 何らかの誤り方略を持っていることが示された. かなり多様な誤り方略が見出されたが, 大別すると, 主に分数自体の大きさについての方略(ルールAとルールB), 分数と10および0との関係についてであった. ルールAとは, 分子(または分母)が大きくなると, 分数の大きさは小さくなるとするルールで, ルールBは分子(または分母)が大きくなると分数も大きくなるとするルールである. この2つのルールの組合せから, 子どもは4つのグループのどれかに分類されたが, これら4つのグループから典型的な子どもを選択して面接調査をおこなった. その結果, ルールBを示す子どもは, 分数を整数の知識を基にして捉えていることが分かった. たとえば, 彼らに分数の大きさを作図させると(2/5と2/3), ほとんどの子どもが2/5の全体を2/3のほぼ倍近くに画いていた. そうした考えの矛盾をついても, まったく異なった観点からその質問に反応することが多く, 誤りとしては安定していた. これに対して, ルールAを示す子どもに面接をおこなうと, 矛盾をつく質問を与えられると, 自分の考えをモニターする能力をもっていることが示された.
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