Research Abstract |
過去2年間に糖尿病性網膜症872名を観察し, 硝子体出血や牽引性網膜剥離などを178名237眼で検出した. このうち, これらの硝子体牽引障害が観察時に認め得なかったが後に生じたものが81名88眼あった. この88眼の牽引障害発生前後の経過を追跡した. 観察は6ケ月以上とした. 牽引障害発生前の網膜症は単純型17眼, 前増値型68眼, 増値型3眼で, 前増値型が前駆期として注目された. 硝子体牽引が始まると網膜症が進行した. 平均1年8ケ月後, 88眼中, 単純型5眼, 前増値型19眼, 増値型64眼となり, 77眼88%が進行した. 蛍光造影では, 硝子体牽引が生じた網膜血管部から, 軽い蛍光色素の漏出が始り, 一部に血管新生が生じて強い色素漏出を呈した. 一方, 硝子体剥離が完成すると, 網膜症の進行がとまり, 蛍光色素の漏出が減弱ないし停止した. 牽引障害発現前に, 後部硝子体末剥離だった例が77眼, 不完全剥離だった例が11眼あった. 硝子体の剥離につれて牽引性出血が現れた. 線維血管性増殖が生じると, 硝子体と網膜は器質的に癒着し, 牽引が昴じると網膜が剥離した. 癒着が強い重症例が39眼44%あり, 蛍光眼底造影では, 網膜血管牽引が持続すると蛍光色素が明かに漏出した. 血管新生により色素漏出は増強し, 網膜症も進行した. 重篤化した〓眼に硝子体手術を施行した. 前後方向の牽引と接線方向の牽引を夫々の病態に応じて, 適した剪力やカッターにて剥離し除去した. 完全に切除した例では, 牽引の解除の後に網膜症は劇的に鎮静化し蛍光色素の漏出も減弱消失した. 術前に可能な限り光凝固をしたり, 術中に眼内光凝固をした例では, 術後の新生血管緑内障の発生がなかった. 以上, 蛍光造影や細隙灯顕微鏡撮影などを通して詳細に検索した結果, 硝子体牽引によって網膜血管症は増悪する一方, 後部硝子体剥離の完成や硝子体切除による硝子体牽引の解除は, 増殖性病変を含め, 網膜血管症を効果的に鎮静化することを確認した. 尚研究を続行中.
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