Research Abstract |
突然変異体マウスwastedは, 常染色体劣性変異体で, イオン化放射線感受性や免疫不全, 高発癌性を示すヒト遺伝病AT(Ataxia-telangiectasia)の疾患モデル動物として紹介された. 共同研究者を含め, これまでに得た知見によれば, in vivoでガンマ線照射した後の骨髄細胞に, 高率の染色体異常の誘発が認められ, しかもそれは離乳後の日令に依存している. 本研究は, この点に関する検討を行ない, 以下の成果を得た. in vivoで照射した精原細胞, in vitroで照射した培養骨髄細胞, 培養線維芽細胞の染色体を調べたところ, この異常高発は, 培養骨髄細胞のみに認められ, しかも細胞採取時の動物の 乳後の日令に依存していた. これは, in vivoにおける染色体異常高発現象が, 骨髄細胞自身の変化によるものであり, 組織特異的であることを示している. また, 放射線照射後の細胞の生存率をメチルセルロース添加培地中のコロニー形成で観察したところ, 骨髄細胞の放射線感受性は, 赤血球産生系の幹細胞CFU-Eに特異的に生じ, 顆粒球系の幹細胞CFU-Cには認められなかった. このことは, 変異遺伝子wstの効果に, 同じ器官のなかでも細胞特異性があることを示している. 上記の成果とこれまでの知見によれば, wastedマウスとヒトATは, 特異的な細胞に限れば, 種々の生物学的指標に関してよい一致を見ることが判明した. これらの変異体については, DNA修復に関与するある種の修飾酵素の機能に関し共通した異常が認められること, また免疫不全や神経症状の内容の酷似より, 造血系, 免疫系, 神経系を含む体細胞の分化・増殖におけるDNA修復過程の果たす役割を解明するモデル系になると考えられ, その遺伝子の解明を予定している.
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