1988 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63510033
|
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
潮江 宏三 京都市立芸術大学, 美術学部, 助教授 (60046373)
|
Keywords | 英国美術史 / 細密画 / 肖像画 |
Research Abstract |
本年度は、英国に花開いた独自のジャンルである「細密肖像画」について、基本的な文献の収集と作品写真の資料収集に力を注いだ。後者については、十八・十九世紀の伝統護持だけの衰退期に関して未整理の部分もあるが、現在、作者別、モデル別に系統立てて整理中である。 これらの作業と並行して、このジャンルについての基本的な問題点、ことにその成立をめぐる問題、その展開と変遷について現段階での研究成果について検討し、本研究で解明すべきいくつかの問題を確認した。それは、多岐にわたるもので、まずコピー作の多い、この分野で研究者の成果を踏まえながら自分なりの真贋の確定が必要であること、英国においてこのジャンルの成立を促した影響源とそのあり方について、ことにヘンリー八世の宮廷画家になったホルバイン(子)との関係について言われているほど単純ならざるものを含んでいること、ことに同時代のネーデルランドやフランスの宮廷肖像画との関係も直接、間接に無視できないこと、さらに同じように隆盛した当寸大の通常の肖像画との関係もこれとまったく切り離して考えられるようなものではないこと等である。ことに、テューダー朝の政治的、宗教的動揺のなかで主要なパトロンである宮廷の性格が次々と変わる状況では、肖像画そのものにたいする価値付与のあり方も複雑であったであろうからなおさらである。先述の問題と関連づければ、それゆえにこそ、実際はホルバイン一辺倒でもなく、カソリックのフランドルやプロテスタントのオランダから影響が及ぶこともあり得たのである。 こうした成果を踏まえて、ホルバインとそれに先行するといわれるホレンボウトと英国生まれの最初の細密肖像画家ニコラス・ヒリャードとの関係について、後者の著作をおさえながら考察を行なった。その成果は学会の例会(5月)にて発表する予定である。
|