1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63510033
|
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
潮江 宏三 京都市立芸術大学, 美術学部, 助教授 (60046373)
|
Keywords | 英国美術史 / 細密画 / 肖像画 / 宮廷文化 / マニエリスム / ルネッサンス |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の基本的文献の収集や作品写真の収集の実績を踏まえ、同じ努力を続けるとともに、後者の作者別、モデル別の系統立てた整理も継続中である。 このような作業と並行して、あるいはそこにおける知見を踏まえて、英国における細密肖像画の歴史的流れの全体像に考察をめぐらしながら、最も注目される、このジャンルの成立期、その開花期(最初の開花期)について、特に考察検討を加えた。その成果は、美学会の例会にて発表し、学会誌「美学」に論文として発表した。 まず、細密肖像画の技術は、中世の写本絵画を支えていた「ミニアチュ-ル」によるものであること、従って、このジャンルを最初に手がけたのは、ネ-デルランド系の細密画家であり、またそうした美術との結びつきの強かったフランス宮廷においてのことであること、そして、これを一挙に芸術的ジャンルに高めた人は、ホルバインであったことが概括言えよう。しかし、ホルバインと「細密肖像画」との関係は複雑であり、彼が英国の宮廷画家になって、彼自身の様式も平板なものに変化させて、その変化の先でこれを手がけたものであるが、これをヒリャ-ドの細密画と比較すると、前者のものは等身大の作品を縮尺しただけにすぎないのに対し、後者においては、まったく別個のジャンルとして最初から手がけられているのである。その背景には、ホルバインの時代と違って、ヒリャ-ドの頃には、エリザベス1世を中心とした宮廷が確立していて、それを支えた宮廷人たちは、古典的教養と親密さの溢れるサ-クルをつくり、それが細密肖像画の機能と性格に影響を与えたのである。 本年は、さらに全体的展望、文学との関係等をさぐってみたい。
|