1990 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63510033
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
潮江 宏三 京都市立芸術大学, 美術学部, 助教授 (60046373)
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Keywords | 英国 / イギリス / ミニアチュア / 細密肖像画 / リムニング / ヒリヤ-ド / 肖像画 |
Research Abstract |
本年度は.本課題の最終年度として、美術史学会の学会誌において.その研究成果の一部を発表した。初年度の成果としての英国における「細密肖像画(ミニアチュア・ポ-トレイトもしくはリムニング)」の成立の問題をさらにおし進めて、英国の社会・文化的な環境の中でそれが果していた役割についても研究することができ、一定の成果を収めた。それが.先述の論文である。肖像画が単なる似顔絵ではなく、十六世紀当時の英国の宮廷文化の中で、積極的な役割と意味を有していたことを、エリザベス一世女王の絶対主義体制を支える政治的なメカニズムのなかで、また、それが総体的な文化の一翼を担っていたことを、当時の詩や文化人との交流の中で証明し得ることができた。そしてまた、そうした機能と役割を担うことで、他の宮廷では起り得なかった、細密肖像画の独占ということが英宮廷では生じ、そのことがこのジャンルの存在を確固としたものであることも十分証明し得た。 また、本年度は、その細密肖像画の立役者であったヒリヤ-ドが書き遺した「リムニング芸術論」の和文による全訳も行なうことができ、当時の芸術家たち、文人たちの感性と思考の内部にも触れることができた。本翻訳は、今後の美術史研究、芸術論研究、文化史研究において、重要な資料になるだろう。この作業を通して、イタリア・ルネサンス文化に対するイギリスの独特の位置といったものが、見えて来たことも、今後の研究の意欲を大いに誘うものであった。 今後、これらの成果を踏まえ、総合的な視点を重視しつつ、英国細密肖像画の研究をさらに進めたい。
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