1989 Fiscal Year Annual Research Report
18、19世紀ロシア文学における「旅」のイメ-ジについての研究
Project/Area Number |
63510271
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津久井 定雄 大阪大学, 言語文化部, 助教授 (30011357)
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Keywords | 旅 / ロシア文学 / 旅行文学 / ガラムジ-ン / ラジ-シチェフ / プ-シキン / ドストエフスキイ / トルストイ |
Research Abstract |
ラジ-シチェフの「ペテルブルグからモスクワへの旅」は今日までその革命思想的側面があまりに強く強調されてきたが、19世紀ロシア文学を先どりしている面もある。ドストエフスキイ文学との繋がりについてもほとんど言及されることはなかったが、彼らは、「行者アレクセイ」という民間の形象に対して、起伏の激しいロシア人の感情に対して、ぬけ目のない小官吏のイメ-ジに対して、孤独な演説者像に対して、共通の関心を示している。ラジ-チェフは専制君主を中心に据えた独裁的世界モデルに対して、「豊かな感受性」と自然法思想に基く世界モデルを対置させるが、そのそれぞれの世界モデルの核になる絶対的1人称と自律的1人称の対立関係は、ドストエフスキイ文学の中で独自の展開を見、主人公の内面の絶対者コンプレックスとして造形化されるもとになる。ラジ-シチェフがわずかに触れただけの「危険な旅での人間の平等の目ざめ」というモチ-フはトルストイ文学の中で展開を見る。 ロシア啓蒙主義文学を代表するカラムジ-ンとラジ-シチェフの旅行記はロシア人の旅人のイメ-ジに多大の影響を与えた。後世のロシア人はガラムジ-ンの旅によって自分の旅を検証し、自分の旅によってカラムジ-ンの旅を検証した。プ-シキンはラジ-シチェフの旅を逆にたどる旅行記を書いていた。 ドフトエフスキイの「未成年」には、カラムジ-ンの「旅人」の派生形である(とソ連の学者Ju,ロ-トマンが考える〕、高い教養を持ちながらどこにも自分の魂のより所を見出すことができない放浪者と、信仰があるためにどこにいても自分の魂のやすらぎを見出すことのできる農奴出の巡礼とが登場する。 このような個々の文学作品に登場する旅人とその旅の意味を理解するためにも「旅」イメ-ジの研究は不可欠なのである。
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