2016 Fiscal Year Annual Research Report
ペプチド中分子の全合成からはじまる精密分子認識および抗菌活性の解析・制御
Publicly Offered Research
Project Area | Middle molecular strategy: Creation of higher bio-functional molecules by integrated synthesis. |
Project/Area Number |
16H01130
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 将行 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (70322998)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 合成化学 / 抗生物質 / ペプチド / 生物活性分子の設計 / 生理活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する第一選択薬はバンコマイシンだが、近年バンコマイシン耐性SA (VRSA)の出現が確認され問題となっている。感染症拡大への抑止手段として、新たな作用機序を有する抗生物質の創出は非常に重要な課題である。ペプチド中分子ライソシンE (1)は、メナキノン(MK)選択的な膜破壊を起こし、抗菌活性・治癒活性を有する。本研究は、1を構造基盤として、抗MRSA・抗VRSAシーズとして有用な化合物の創出、および電子伝達系キノンを標的とした薬物シーズを創出することを目的とする。 平成28年度は、1の側鎖官能基の重要性を調べるために、構造活性相関研究を行った。すなわち、1の塩基性のアルギニン側鎖グアニジン、N末脂肪酸鎖およびフェニルアラニン側鎖ベンゼン環またはトリプトファン側鎖インドール環を置換した14種類の類縁体を設計し、固相合成した。MK選択的なリポソーム破壊活性および黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性試験により、1およびその類縁体の機能を統一的に評価した。その結果高い抗菌活性発現には、塩基性側鎖の存在、C4-C9の炭素鎖の存在が大きく寄与することがわかった。一方、インドール環を除去した類縁体においては活性が完全に失われたことから、1のインドール環が、活性発現に最も重要な部分であることが強く示唆された。これらの結果により、1の活性発現機構が新たに提案できた。1の塩基性のグアニジン部分および疎水性の脂肪酸鎖が、細菌リン脂質の酸性極性頭部または疎水性脂肪酸鎖とそれぞれ相互作用することで、細菌細胞膜と強く相互作用する。細菌細胞膜において、MKの電子不足なナフトキノン環と1の電子豊富なインドール環が芳香環相互作用を生じることで選択的に相互作用し、1-MK複合体を形成する。最後に、複合体の形成により膜傷害および細胞死が引き起こされる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28,29年度において、①ライソシン-MK相互作用に対するライソシン部分構造の寄与解明、②WAP-8294A2および誘導体の合成と機能評価、③ライソシン類と各種キノン類との相互作用に関する網羅的検証の3点を推進する。平成28年度では、主に項目①を達成し、学術論文として出版し、招待講演を行なうにいたった。 項目②においては、ライソシンEの全合成で得た知見を応用して、WAP-8294A2 (2)の全合成を目指している。効率的な構造活性相関研究を可能にするために、完全固相合成による全体構造構築を計画した。固相上でFmoc基の脱保護、保護アミノ酸の縮合を繰り返して環化前駆体とした後に、アリルエステルの脱保護と固相上でのマクロラクタム化によって2の全体構造を構築した。最後に樹脂からの切り出しと脱保護を同時に行い、2の全合成を、少量ではあるものの達成した。さらに現在固相全合成の最適化を進めている。 項目③を効率的に推進するために、One-Bead-One-Compound (OBOC)戦略をライソシンE (1)に適用することで、評価対象となる類縁体の数を飛躍的に増大し、大規模な構造活性相関研究を実施することを計画した。すなわち、4箇所のアミノ酸残基を側鎖置換基の物性に基づく7種類のアミノ酸にランダム置換するsplit-pool合成を行い、樹脂に結合した2,401種類のライソシンE類縁体ライブラリを作成した。 すべての項目において、申請書記載の課題を順調に進展させている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の目的である項目①は達成できたため、項目②と③を同時推進する。 ②WAP-8294A2および誘導体の合成と機能評価 WAP-8294A2 (2)の固相全合成を引き続き行い、合成を最適化する。得られたの2に対して、1の場合と同様に、抗菌活性評価、MK依存的膜破壊活性評価を行い、MKとの相互作用について知見を得る。また、確立した全合成法に従い2の誘導体を合成し、それらの機能についても同様に評価する。 ③ライソシン類と各種キノン類との相互作用に関する網羅的検証 OBOC戦略によって得た2,401種類のライソシンE類縁体ライブラリの最適化と活性評価を進める。すなわち、樹脂上の類縁体のMK親和性を評価する方法として、樹脂に吸着されるMKを蛍光によって定量する方法を確立する。 さらにビーズから切り出したペプチドに対する液相での機能評価として、1粒のビーズに由来する類縁体の抗菌活性評価およびMS/MSフラグメント解析による構造決定法を確立する。これにより、1の機能向上や機能変化させた類縁体を探索する。 生物種により電子伝達系に利用されるキノン種は異なるため、これらに選択的に作用する化合物は有用な創薬シーズとなり得る。一方、1のMK・UQ以外のキノン類に対する相互作用能は未知である。そこでライソシンEライブラリの各種キノン類に対する相互作用と選択性を検証し、MK以外のキノン類と相互作用するための構造要件を明らかにする。合成が完成したライソシンE類縁体ライブラリに関して、MKおよびUQ以外の様々なキノン類(RQ、DMK、MMK、MTK等)に対する相互作用を網羅的に評価する。キノン依存的膜破壊活性評価を行う。これらの実験から、ライソシン類のキノンに対する選択性や、各種キノンを分子認識する際の構造要件などを絞り込む。有用な構造が判明した場合には、構造最適化についても検討する。
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[Journal Article] Design and Synthesis of Potent Substrate-based Inhibitors of the Trypanosoma cruzi Dihydroorotate Dehydrogenase2017
Author(s)
D. K. Inaoka, M. Iida, S. Hashimoto, T. Tabuchi,T. Kuranaga, E. O. Balogun, T. Honma, A. Tanaka, S. Harada, T. Nara, K. Kita, M. Inoue
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Journal Title
Bioorg. Med. Chem.
Volume: 25
Pages: 1465-1470
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] The Open Form Inducer Approach for Structure-Based Drug Design2016
Author(s)
D. K. Inaoka, M. Iida, T. Tabuchi, T. Honma, N. Lee, S. Hashimoto, S. Matsuoka, T. Kuranaga, K. Sato, T. Shiba, K. Sakamoto, E. O. Balogun, S. Suzuki, T. Nara, J. R. Rocha, C. A. Montanari, A. Tanaka, M. Inoue, K. Kita, S. Harada
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Journal Title
PLoS ONE
Volume: 11
Pages: e0167078
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] 薬を創る化学2017
Author(s)
井上将行
Organizer
EMPプログラム, 東京大学
Place of Presentation
東京大学(東京都, 文京区)
Year and Date
2017-01-20
Invited
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