2019 Fiscal Year Annual Research Report
多重合成法による強相関電子系酸フッ化物の開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Synthesis of Mixed Anion Compounds toward Novel Functionalities |
Project/Area Number |
19H04711
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
辻本 吉廣 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (50584075)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低温フッ素化 / ペロブスカイト / 高圧合成 / クロム / 還元反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロム4価、特に八面体配位の化合物の例は限られており、通常、高圧条件によってのみ悪アクセスが可能である。SrCrO3ペロブスカイト物質はその典型であり、数万気圧ほどの圧力を要する。遷移金属酸化物は混合原子価状態によってしばしば強相関現象が観測される。La1-xSrxMnO3の巨大磁気抵抗、La2-xBaxCuO4の高温超電導などが例として挙げられる。一方、クロム系についてもCr4価とCr3価の混合原子価状態をもつNaCr2O4, K2Cr8O16において、巨大磁気抵抗や金属絶縁体転移が観測されており、4価のみからなるSrCrO3とは物性が大きく異なる。これまでにCr4+/3+の混合原子価物質の合成が報告されているが、どれも高圧条件で合成されておらず、したがって、クロムの価数は3価リッチのものばかりで強相関現象は観測されていない。唯一の例外としてSr1-xLaxCrO3薄膜においてCr4+リッチ相において金属絶縁体転移が観測されているが、バルク試料では全く検討されていない。本研究では、Cr4+/3+の混合原子価物質の合成をSrCrO3の低温フッ素化によって検討し、SrCrO2.8中間相を経てSrCrO2.8F0.2が得られることを見出した。さらに、導入されるフッ素量は中間相の酸素欠損量と相関していることがex-situ XRD測定によって明らかにした。これらの結果を踏まえて、同様の酸素欠損相が報告されているCaCrO3に低温フッ素化を行ったところ、CaCrO2.85, CaCrO2.5を経て、酸フッ化物相CaCrO2.5F0.5が得られることを発見した。残念ながら、これら酸フッ化物相は混合原子価状態であるにも関わらず、顕著な強相関現象を示さなかったが、これまで充分な議論がなされていなかった低温フッ素化反応の機構の解明に繋がる重要な発見ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を進める前に、SrCrO3の低温フッ素化過程について考察を行い、フッ素のドープ量は中間体に生じ得る酸素欠損量に強く依存することを見出していた。以上の考察を踏まえた上で、2019年度ではより多くの酸素欠損量を持ち得るCaCrO3に注目し実験を行ったが、予想通りにフッ素がよりドープされたクロム酸フッ化物相を合成することに成功した。また、酸素欠損相が中間相として形成されていることも確認した。磁化率測定の結果で判断する限り、フッ素化試料はCaCrO3の磁化率と似た振舞いを示し、磁気基底状態は反強磁性と推察される。Crの価数は4価と3価が半々になっているが、これまでに報告されている非ペロブスカイト構造のCr4+/3+混合原子価物質で見られるような巨大磁気抵抗は本系では確認できていない。しかしながら、反応機構についてはこれまでの低温フッ素化反応では見られなかった現象が観測されたことから、これまで充分な議論ができなかった低温フッ素化反応の機構の理解が進むものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにペロブスカイト構造をもつCaCrO3, SrCrO3の高圧合成、及び続く低温フッ素化反応により、Cr4+/3+の混合原子価状態をもつ新規酸フッ化物の合成に成功してきた。Cr中心の八面体は全て点共有で連なっており、Aサイトの大きさによってこれらのネットワークの歪み具合が異なる。その結果、酸素脱離のパスに変化が生じ、フッ素ドープ量がCaとSrで異なっていると推察される。それでは、Srより大きなBaを含むCr酸化物を母体に使うとどういう変化が現れるのか?今後の研究ではBaCrO3における低温フッ素化反応を検討する。BaCrO3はその大きなAサイトイオン半径ゆえに、通常のペロブスカイト構造はとらず、いわゆる六方晶ペロブスカイト構造をとる。さらに、圧力と温度条件によって複数の多形が現れることがすでに報告されている。Cr中心八面体は点共有及び面共有を通して連なり、ACrO3 (A = Ca, Sr)とは全く異なる酸素脱離とフッ素導入のパスの形成が予想される。これらBa体を用いた低温フッ素化によってCr4+の多重合成の化学の総仕上げを行う。
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