2020 Fiscal Year Annual Research Report
ダイナミックシステム・アプローチによる語の意味分化と誘導に関する発達モデルの構築
Publicly Offered Research
Project Area | Studies of Language Evolution for Co-creative Human Communication |
Project/Area Number |
20H05002
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阪上 雅昭 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (70202083)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダイナミックシステムズアプローチ / 階層性 / アトラクター / 意図共有 / バイアス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,原初的な語が発達初期から品詞に分類可能であるという従来の言語発達研究の前提を問い直し,乳幼児独自の言語構造とその可塑的変化を捉えるスキームを創ることを目的とする.そのため,非線形物理の知見を人間発達に応用したダイナミックシステム・アプローチを援用し,言語発達における「語の意味分化」過程及び大人の働きかけによる「語の意味誘導」を統一的に説明するモデル構築をめざし,そのための心理実験を行った.
初期の語の意味が〈出来事〉全体を指示する段階から〈モノ〉だけを指示する段階へと分化するという胚性詞仮説を実証する実験を行った.さらにこの 18~23ヶ月69名を対象にした横断的実験と併せて,そのうちの16名については,月齢が18~19ヶ月と21ヶ月の2回にわたる縦断的な実験を実施している.その結果,横断研究(69名)および縦断研究(16名)のどちらにおいても,さらに,指差しと注視のどちらの指標においても、胚性詞仮説を支持する結果が得られた.また,この月齢の幼児は,〈行為〉だけから名詞的な語の意味を予測することはできなかった.したがって,名詞的な語の初期の意味は〈モノ〉と〈行為〉とが未分化に融け合っているものの,そのなかで〈行為〉に相対的な比重が置かれているわけではなく,名詞に対応する〈モノ〉それ自体が語の意味判断には必要であることが示唆された。. さらに本年度は,語の意味分化と語彙数の成長との関係を調べた.その結果,名詞的な語の意味分化の程度は,特に動詞において,その後の語彙数の成長に正の関連をもっていることという興味深い知見を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,本報告書の研究実績の概要で述べたように,18~23ヶ月の幼児を対象にした実験を実施し,胚性詞仮説を裏付ける結果を得ることに成功している.この結果については,現在,論文を投稿中である.
また上の実験の解析を行う上で,視線の向きと指差しという2つの指標の同等性を示すことが必要であった.そこで、視線の向きから指差しの方向(右・左)を予測するモデルを開発し,これらのモデルを使うことで,注視と指差しはある程度同等に扱える指標であるということを定量的に示し,学術誌Infancy に発表した. これらの成果から,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのの実験で,18~19ヶ月の幼児に胚性詞的な状態が存在する可能性を示したので,今後はより若い月齢での胚性詞的状態の存在と発達を解明する実験と,ダイナミックシステムアプローチでの名詞・動詞アトラクターの形成の視線データからの定量的解析を実施する.加えて,大人の働きかけが意味分化に与える効果を検証する実験を行う.具体的には,次の3つの実験,解析を実施する.
1.10~26ヶ月のを対象に新奇語学習実験を行う.新奇語に対応する<モノ>だけを提示する課題と〈モノ〉や〈行為〉を合わせて提示する課題での反応の早さや正答割合を視線データを用いて評価し,10~11ヶ月という若い月齢のときに胚性詞的状態が存在することを実証する実験課題を実施する. 2.胚性詞状態から名詞・動詞2つのアトラクターに分岐する過程の実証を試みる.これまでの実験結果から,名詞アトラクターへ進化するドミナントな経路は分かってきている.今年度,実験1で取得される視線データ,さらには昨年度取得した2肢強制選択実験での顔の向きのデータから,胚性詞からの意味分化で名詞アトラクター以外に存在すると期待されている動詞アトラクターの存在を実証するためのデータ解析の手法を確立する.具体的には,名詞アトラクター,動詞アトラクターで生成される2種類の2項過程からなる混合2項分布モデルを視線や顔の向きデータに適用し,わずかに存在すると期待している,動詞アトラクターの影響を検出することを試みる. 3.教示者(大人)の働きかけの違いによって,語の意味が特定のアトラクターに誘導されやすくなるか探索する.幼児にとっては新しいおもちゃで遊ぶ際の教示者の発話や行為を録画し,教示者のどのような働きかけが幼児の意味分化の動詞・名詞の向きを決めているかを検証する実験を実施する.
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