2020 Fiscal Year Annual Research Report
エアブリッジインダクタンスによる超伝導力学インダクタンス検出器の高感度化
Publicly Offered Research
Project Area | Unraveling the History of the Universe and Matter Evolution with Underground Physics |
Project/Area Number |
20H05244
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
成瀬 雅人 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (10638175)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 超伝導検出器 / 力学インダクタンス検出器 / 放射線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,ニオブエアブリッジ構造を超伝導検出器(Kinetic Inductance Detector: KID)に導入することで,冷却コストを抑えつつ検出器の感度を維持する方法を検証する.KIDは半導体検出器と比べ1000倍以上の高感度が期待できるだけでなく周波数多重読出によって大規模アレイ化にも適している.一方で従来はKIDを作製する超伝導膜にアルミニウムなどの材料が用いられ0. 1K程度の極低温動作が必要となるため,大規模化には冷却コストが問題となってきた.そこでアルミニウムよりも10倍程度高い超伝導転移温度を持つニオブを使用することで,動作温度を1 K程度まで上昇させつつ,高い動作温度でも感度を維持することを目指す.KIDは超伝導共振器から構成されておりその共振特性が感度に直結するため,共振Q値が劣化しないようにエアブリッジ構造をデバイスに組み込むことが重要となる. 本年度は最先端の直接描画技術を駆使したフォトリソグラフィ技術により,インダクタンス部分に50 um長のエアブリッジ構造を組み込んだ超伝導検出器の作製に成功した.このデバイスで20万程度の高い共振Q値を確認し,アルファ線の検出にも成功した.一方で,全インダクタンス長における,エアブリッジ部分の比は0.5%と小さい設計だったため,通常のインダクタンス部分にあたった信号と,エアブリッジ部分にあたった信号を見分けることはできず,エアブリッジ構造によるエネルギー分解能向上には至らなかった.そこで,エアブリッジ部分の比率を50%以上に高めた素子の設計を行った.次年度はこの新設計デバイスの作製評価を行う.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,インダクタンス部分に50 um長のエアブリッジ構造を組み込んだ超伝導検出器作製に成功し,1Kの動作温度でエアブリッジ構造のない従来型デバイスと遜色ない20万程度の共振Q値を得た.加えて,アメリシウム線源からの5 .4 MeVのアルファ線の検出にも成功した.これらの成果について国内学会・研究会で3件(うち2件招待)発表しており,おおむね計画通り進捗している.一方で,全インダクタンス長におけるエアブリッジ部分の比が非常に小さいため通常のインダクタンス部分にあたった信号と,エアブリッジ部分にあたった信号を見分けることはできていない.これを打開するための新設計デバイスの開発によるエネルギー分解能向上やニオブ内の熱伝導率やニオブとシリコン基板界面のエネルギー交換効率などデバイス性能を決定する基礎物理量の推定作業も次年度の課題である.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はまず,エアブリッジ部分の比率を50%以上に高めた新設計素子の作製に注力する.これと並行して,ニオブ膜のスパッタ条件などの見直しによってエアブリッジ長の50 um以上へ伸長させ,さらなる比率向上も目指す.新デバイス作製後は,アルファ線源を用いてその検出器性能を評価するが,その際の測定系をこれまでの単素子読み出しから多素子同時読み出しへと改善する.これにより多素子のパルス情報を同時に取得できれば,アルファ線が吸収位置の同定が容易となり,通常のインダクタンス部分での信号とエアブリッジ部分による信号を分別する助けとなると期待される.2つの信号を区別することは本研究課題で提案するエアブリッジ構造の有効性検証に必要不可欠である.さらに多素子多重読み出しによる信号解析は,シリコン基板内のフォノン伝搬速度などのデバイスの基本的な物理量解明にも役立つと期待される.
|