2021 Fiscal Year Annual Research Report
疑似細胞環境下における発動分子のゆらぎに誘導される運動特性の解析
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Engine: Design of Autonomous Functions through Energy Conversion |
Project/Area Number |
21H00405
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
有賀 隆行 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授(特命) (30452262)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 生体分子モーター / エネルギー変換 / 1分子計測・操作 / 非平衡物理学 / 生物物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内で小胞などを輸送する並進型発動分子であるkinesin 1(以下キネシン)は、ATPの加水分解をエネルギー源として、微小管の上を 歩きながら力学的な仕事を行っている。我々は以前の研究において、そのエネルギー入出力をin vitroで定量したところ、80%もの(自由)エネルギーが見えない形で散逸されており、あたかも効率の悪いモーターのように見えた。一方、キネシンが実際に働く生きた細胞内では、in vitroの実験系とは異なり、非熱的なゆらぎがアクティブに生み出されていることが知られている。そこで私は、キネシンは顕微鏡の上ではなく、実際に彼らが働く環境である生きた細胞の中でこそ最大のパフォーマンスを出すように最適化されているのだろうと仮説を立て、細胞内と同等の環境をin vitroで人工的に構築し、その中でキネシンの運動を観察することで、その仮説を実証する研究を続けてきた。 まず、細胞内で見られる非熱的なゆらぎを人工的に生成し、光ピンセットを用いて外力のゆらぎとしてキネシンに与えながらその運動の解析を行った。その結果、キネシンは外力のゆらぎに誘導されて加速することを見出した。さらに、より細胞内のゆらぎに近づけた数理モデル解析を行ったところ、細胞内のように混雑して粘性の高い環境下においても in vitroでの無負荷時と同程度の速さが実現できることが示唆された。本年度はこの成果を論文として纏め、代表者が筆頭かつ責任著者となる原著論文としてPhysical Review Letters誌に掲載され、特に注目すべき論文としてEditors’ suggestion に選ばれた上に、そのうちのさらに一部の論文だけが選ばれるFeatured in Physicsとしてアメリカ物理学会(APS)の発行するPhysics誌において紹介記事が出された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞内でみられるアクティブなゆらぎを人工的にin vitroの環境に再現することで得られたキネシンが加速するという新しい実験成果に、数理モデル解析とシミュレーションの知見を加えて、その成果を論文を無事に纏めて出版できたこと、および、その成果が海外でニュース記事として取り上げられるほどの評価を得たことで、おおむね順調であったといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では主としてアクティブなゆらぎを再現することで、人工的な疑似細胞内環境を実現していたが、実際の細胞内はより混雑していることが知られている。そこでこれまでの実験系に様々な夾雑物を加えることで混雑した環境を再現し、より細胞内に近い計測環境をin vitroに再現する。そしてその環境中でのキネシンのゆらぎ加速現象やゆらぎ応答を計測することにより、仮説の実証を目指す。
|