2011 Fiscal Year Annual Research Report
C型肝炎ウイルスの持続感染化、生体防御応答による慢性炎症発症機序の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Conversion of tumor-regulation vector to intercept oncogenic spiral accelerated by infection and inflammation |
Project/Area Number |
23114511
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
小原 道法 財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 副参事研究員 (10250218)
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Keywords | C型肝炎ウイルス / 持続感染化機序 / 自然免疫監視機構 / 獲得免疫監視機構 / 慢性肝炎 / Cre/loxP/HCV-MxCre Tgマウス / HCV遺伝子組換えワクチニアウイルス |
Research Abstract |
難治性のウイルス疾患の中でも200万人と感染者が多く、予後も悪いC型肝炎ウイルス(HCV)疾患の征圧を研究の基軸とした。本研究では1)HCVがいかにして免疫監視機構を回避しているか、2)さらにワクチニアウイルス組換えワクチン(HCV-RVV)を接種し、その治療効果を解析した。 Cre/loxPシステムでHCV遺伝子を導入したTgマウス(Cre/loxP/HCV-MxCre Tg)を作製した。宿主の免疫応答を活性化するために、ナイーブな脾細胞をTgマウスに投与し、肝臓におけるHCV蛋白の発現や肝臓、脾臓リンパ球の解析を行った。次に、HCV-RVVはHCVの構造蛋白質を主に発現するCN2、非構造蛋白質を発現するN25、全蛋白質を発現するCN5を用いた。Tgマウスに単回皮内接種し、1)肝臓におけるHCV蛋白の発現量、2)サイトカイン、3)肝臓、脾臓リンパ球での抗原特異的CTLsの検出などの解析を行った。 脾細胞をTgマウスに投与後、一過性のHCV蛋白量発現の低下を認めた。肝臓内のリンパ球の解析から、ドナーの細胞ではなく宿主のNK細胞の活性化が認められた。また、HCV-RVV接種後4週ではN25接種群でHCV蛋白が減少していた。またN25接種群では接種後1週で肝臓の索状構造や肝細胞のsteatosisなど、HCV特有の形態学的な異常の正常化が認められた。さらにN25接種群では、他群と比較し血清中の炎症性サイトカインが抑制されていた。N25接種群においてTgマウスのCD4またはCD8を欠損させるとHCV蛋白減少効果はみられなかったが、HCV特有の形態学的な異常の改善が認められた。我々が樹立したHCV持続発現モデルは、HCVの持続感染と宿主の免疫応答の関係を解析することを可能にした。さらに、HCV-RVV(N25)接種によりマウス肝臓におけるHCV蛋白の減少及び慢性肝炎症状の正常化が認められた。これらの知見は今後のHCVワクチンの実用化の可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HCVトランスジェニック(Cre/loxP/HCV-MxCreTg)マウスを作製した。Poly(I:C)投与により発現させた肝臓内のHCV蛋白は、完全に排除されることなく、600日以上の持続的な発現が確認された。形態学的には遺伝子発現後6~7日で壊死を伴う比較的高度の炎症細胞浸潤が認められ、その後、門脈域を中心とした弱い炎症反応が持続的にみられた。他の病態としては肝細胞の膨化、脂肪変性、グリコーゲン変性、肝細胞索の乱れ、線維化、肝細胞癌およびリンパ腫などがみられた。脂肪変性に関しては遺伝子発現後21日から認められ、HCV持続感染時に似た免疫反応状態をつくることができた。 Cre/loxP/HCV-MxCreTgマウスが完全にHCV蛋白を排除できない理由として、宿主の免疫系が機能不全にあることが考えられる。そこで我々は持続発現している肝臓内のHCV蛋白を排除する目的で、Wild-typeマウスから調整したナイーブ脾細胞を慢性肝炎状態のCre/loxP/HCV-MxCreTgマウスに移入した。その結果、移入後2日目で肝臓内のHCV蛋白が一過性に減少し、IFNg産生NK細胞が増加していることがわかった。また、移入後6日ではドナーおよびレシピエント側のNK細胞、NKT細胞、CD8+T細胞の増加が認められた。さらに、6日目ではALTの上昇もみられた。しかしながら、HCV蛋白の発現量に変化はみられなかった。このことから、移入後6日目では免疫応答を惹起できるが、HCV蛋白に対する免疫応答が不十分なため、HCV蛋白の排除には至らなかったことが考えられ、持続発現状態におけるCre/loxP/HCV-MxCreTgマウスの免疫系はHCV蛋白に対し、可逆的な機能不全状態にあることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
我々はより効果的に宿主の免疫応答を惹起する目的で、哺乳動物細胞において複製可能な弱毒ワクチニアウイルス「LC16m8株」を母体としたHCV遺伝子組換えワクチニアウイルス(HCV-rVV)株を作製した。HCV-rVVはHCVの構造蛋白質を主に発現するrVV-CN2、非構造蛋白質を発現するrVV-N25、全蛋白質を発現するrVV-CN5を用いた。これらHCV-rVVの治療効果を評価するために、HCV蛋白を持続的に発現した慢性肝炎状態のCre/loxP/HCV-MxCre Tgマウスに単回皮内接種し、接種後1週および4週のマウス肝臓におけるHCV蛋白の発現量と形態学的、生化学的および免疫学的検索を行った。 接種後1週目ではHCV蛋白発現量に変化はみられなかったものの、rVV-N25群の肝臓において壊死性細胞浸潤、肝細胞索の乱れ、肝細胞の膨化、グリコーゲン変性および脂肪変性といった慢性肝炎の病態の正常化が認められた。血清中の炎症性サイトカインの変化を経時的にみると、接種後6~7日目で上昇していた炎症性サイトカインレベルがrVV-N25群では正常マウスレベルにまで戻っていたことがわかった。さらに、抗炎症性サイトカインであるPDGFやTGF-bなどはコントロール群(LC16m8)に比べ上昇していることがわかった。さらに、4週目のrVV-N25接種群では形態異常の正常化に加え、肝臓内のHCV蛋白の減少がみられた。このことから、rVV-N25接種によるHCV蛋白の制御には細胞死を伴わない何らかの蛋白排除機構が働いていることが示唆された。以上のことからHCV-rVVはHCVの排除及び肝炎抑制を目指した安全で効果的な治療ワクチンの開発が期待されている。
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