2011 Fiscal Year Annual Research Report
ポリ(ADP-リボシル)化による細胞の分裂と運動の制御
Publicly Offered Research
Project Area | Regulation of signal transduction by post-translational modifications and its pathogenic dysregulation |
Project/Area Number |
23117527
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Research Institution | Japanese Foundation For Cancer Research |
Principal Investigator |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター・分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
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Keywords | がん / ポリ(ADP-リボシル)化酵素 / 翻訳後修飾 / 細胞分裂 |
Research Abstract |
本研究は、ポリ(ADP-リボシル)化酵素タンキラーゼ1による蛋白質の翻訳後修飾シグナルが、染色体分配および細胞運動をどのように制御し、その破綻がどのようにがん悪性化形質をもたらすかを解明することを目的とする。今年度は以下の成果を得た。まず、タンキラーゼ1の過剰発現は同結合蛋白質であるTRF1のポリ(ADP-リボシル)化を亢進させ、TRF1のユビキチン分解を導くことにより、がん遺伝子オーロラAの過剰発現による細胞分裂異常(細胞質分裂の失敗に伴う四倍体化)を抑制することを見出した。過剰発現したオーロラAは本来、TRF1をリン酸化し、微小管による動原体の捕捉を阻害することを見出した。小分子干渉RNAでTRF1を枯渇させた細胞では、オーロラAを過剰発現しても微小管による動原体捕捉の異常が認められなかった。興味深いことに、TRF1枯渇細胞では微小管による動原体捕捉が過度に亢進している傾向が見出された。これらの結果から、タンキラーゼ1はTRF1のポリ(ADP-リボシル)化を通じてTRF1の蛋白質量を制御し、ひいては染色体分配の精度を保証している可能性が示唆された。オーロラAの過剰発現など、ある種の発がん初期過程では、この系が破綻することによって染色体不安定性がもたらされるものと予想された。一方、我々が以前同定したタンキラーゼ1結合蛋白質TAB182を枯渇させると、細胞の運動能が亢進した。我々はすでに、TAB182がタンキラーゼ1によってポリ(ADP-リボシル)化を受けることを試験管内の検討で明らかにしており、今回、タンキラーゼ1とTAB182の相互作用およびポリ(ADP-リボシル)化反応が、細胞運動を制御している可能性を見出した。これらの分子基盤をさらに詳細に解明することにより、ポリ(ADP-リボシル)化修飾シグナルを標的とした、新たながん治療法への道筋が開拓されると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タンキラーゼ1とTRF1の機能的均衡による染色体分配の制御メカニズムの解析については、当初の計画以上に大きな進展があった。このため、同計画により多くのマンパワーを充当したことにより、タンキラーゼ1とTAB182の相互作用を介した細胞運動の制御メカニズムの解析については、当初の計画のうち、一部は未着手に終わった。但し、細胞運動の方の実験もデータ自体は予想通りに得られており、流れとしては順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
タンキラーゼ1過剰発現細胞およびTRF1枯渇細胞にて、核膜崩壊から細胞分裂後期までの所要時間と、紡錘体チェックポイントの厳格性の因果関係を調べる。さらに、TRF1枯渇細胞およびノックアウト細胞における微小管・動原体捕捉および染色体不安定性(異数性)を免疫染色およびFISHで検討する。これらの検討により、タンキラーゼ1とTRF1による染色体分配の制御メカニズムと、その破綻による染色体不安定性の様態を明らかにする。一方、タンキラーゼ1およびTAB182を過剰発現もしくは枯渇させた細胞株について、アクチン繊維の発達の有無、アクチン脱重合因子コフィリンおよび上流シグナルの変化、浸潤能などを調べる。また、タンキラーゼ1阻害剤がこれらにどのような影響を及ぼすかを調べ、細胞運動およびがん浸潤に対するポリ(ADP-リボシル)化の関与を明らかにする。
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