2011 Fiscal Year Annual Research Report
親電子修飾の制御に働く新奇求核分子としての硫化水素
Publicly Offered Research
Project Area | Signaling functions of reactive oxygen species |
Project/Area Number |
23117703
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
熊谷 嘉人 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00250100)
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Keywords | 親電子物質 / 硫化水素 / 翻訳後修飾 / 解毒 |
Research Abstract |
生体で産生されるガス状物質である硫化水素(H2S)のpKa値が7.67であることから、生理的条件下ではその約80%がHS-の形で存在する。我々はHS-が生体内に侵入した親電子物質MeHgと共有結合を形成して、その親電子性を消失するのではないかと考えた。H2S産生酵素CBSを本細胞に高発現するとMeHgの細胞毒性は減少し、逆にCBSをノックダウンすると毒性は有意に増加した。MeHgとH2Sとの反応で生成した物質は、EI-MSにおいて親イオンピークとしてm/z=464、フラグメントピークとしてm/z=248および449を示し、元素分析の結果から(MeHg)2Sであることが明らかとなった。MeHgを曝露した細胞および個体試料中には、MeHgやそのGSH抱合体以外の未知の代謝物の存在が認められた。この代謝物はHPLC上で合成標品である(MeHg)2Sと同じ保持時間を有し、EI-MSにおいても親イオンピークおよびフラグメントピーク共に本標品と完全に一致した。MeHgをSH-SY5Y細胞に曝露すると、複数の細胞内タンパク質のS-水銀化が見られ、それに伴う濃度依存的な細胞毒性が生じたが、(MeHg)2Sの場合はS-水銀化は見られず、細胞毒性も顕著に低下した。MeHg(0.1mmol/kg)をマウスに腹腔内投与すると、24時間以内にその80%が死亡するのに対して、同容量の(MeHg)2Sを投与しても全く致死効果は示さなかった。 以上より、SH-SY5Y細胞や動物において、CBS(あるいはCSE)から産生するH2Sの大半はHS-に変換され、それがMeHgを求核付加攻撃することで最終的に(MeHg)2Sに代謝されることが示唆された。(MeHg)2SはMeHgとは異なり、タンパク質のS-水銀化や毒性を殆ど呈さないことからMeHgの新奇解毒代謝物であることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
得られた研究成果を米国化学学会誌のひとつであるChemical Research in Toxicologyに投稿し、研究の新規性が評価されRapid Reportとして刊行された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究成果より、MeHgの新規解毒代謝物(MeHg)2Sが細胞および個体レベルで同定されたことから、生体内で産生されるH2Sから生じたHS-は遊離型だけでなく、タンパク質のシステイン残基に相互作用(S-SH結合)している可能性が示唆された。そこで、HS-のリザーバーとして機能しているタンパク質を同定し、最終的に親電子修飾におけるH2Sの役割を解明する予定である。
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