2012 Fiscal Year Annual Research Report
π空間を利用する有機分子フラスコ触媒の創成とトリフルオロメチル化反応の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Advanced Molecular Transformations by Organocatalysts |
Project/Area Number |
24105513
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
柴田 哲男 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40293302)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | フッ素 / 不斉合成 / 生理活性物質 / 水素結合 / 光学活性 / π空間 / 医薬品 / キナアルカロイド |
Research Abstract |
有機分子触媒による分子変換システム開発という研究項目において,安価な天然アルカロイドであるシンコナアルカロイドを有機触媒として用いたフルオロアルキル基の立体選択的導入法の開発に焦点を当てた研究を展開している。とりわけ,キノリン環の持つπ電子とキヌクリジン環に挟まれた空間で反応を制御することにより,効率的に反応を進めるべく手法を開発しており,今年度は分子状酸素を酸化剤に用いる有機分子触媒的不斉エポキシ化反応の開発に成功した。オレフィンに対する触媒的不斉エポキシ化反応は光学活性エポキシドを合成する最も実用的な手法である。得られたエポキシドは様々な天然物の中間体として用いられ,また医薬品などの生理活性物質合成の際の重要なビルディングブロックである。1980年,Sharpless,香月らはTi(OiPr)4/酒石酸ジエチル/tBuOOH系を用いたアリルアルコールの画期的な不斉エポキシ化反応を報告した。本反応は現在においても強力な不斉エポキシ化反応の実用的手法として広く用いられている。この報告以後,非常に多くの不斉エポキシ化反応の触媒システムが開発されている。金属(Ti, V, Mn, Fe, Zr, Hf, Vなど)と活性酸化剤(各種ペルオキサイド,NaOClなど)を用いる手法,有機触媒と活性酸化剤を用いる手法,および金属(Ruなど)と分子状酸素を用いる手法が挙げられる。しかし有機触媒と分子状酸素を用いる手法は報告されていなかった。β位二置換エノンを基質として,メチルヒドラジン,塩基として炭酸セシウム,第四級アンモニウム塩を用いて反応を行ったところ,エポキシドが高収率,高エナンチオ選択性で得られることを見出した。本反応系は,芳香環上の置換基の種類によらず,電子供与性基,電子求引性基を有する基質に対して,高収率かつ高エナンチオ選択性でエポキシドを得ることが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,キノリン環の持つπ電子とキヌクリジン環に挟まれた空間で反応を制御することでシンコナアルカロイドを有機触媒として用いたフルオロアルキル基の立体選択的導入法の開発に焦点を当てた研究を展開した。その結果,これまでの不斉エポキシ化反応は金属と活性酸化剤を用いる手法,有機触媒と活性酸化剤を用いる手法,および金属と分子状酸素を用いる手法しかなく,今まで報告例がなかった有機触媒と分状酸素を用いる不斉エポキシ化反応の開発に成功した。この結果はトップジャーナルであるAngew. Chem. Int. Ed.に掲載された。また,これだけでなく天然アルカロイドであるシンコナアルカロイドを有機触媒とした不斉反応の開発も着々と進行している。また,シンコナアルカロイドだけでなくサブフタロシアニンを用いた分子フラスコへの展開も行っている。3つのイソインドールユニットから成るサブフタロシアニンはすり鉢状の形をしており,トリフルオロエトキシ基の強力な電子吸引性によって形成された電子不足なπ空間に電子豊富な芳香族化合物を取り込むことができる。この時,サブフタロシアニン周辺のトリフルオロエトキシ基は,取り込まれた化合物の構造によって柔軟に形を変え,あたかも化合物を包み込むような構造をとることがX線結晶構造解析によって確認された。このことを利用して,電子豊富な化合物をサブフタロシアニン内に取り込む分子フラスコとしての応用が可能となる。これらの現象を展開させ,特殊な性質を持つフタロシアニンを化学反応の反応場及び反応種として利用する。このことも有機触媒と合わせて今後展開していくつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の展開として,サブフタロシアニンを用いた分子フラスコへの展開と天然アルカロイドであるシンコナアルカロイドを有機触媒とした不斉反応の開発を行っていく。すり鉢構造をしたサブフタロシアニンにトリフルオロエトキシコーティングすることで,電子不足となったサブフタロシアニン内部に様々な電子豊富な芳香族分子を取り込むことのできる新規分子フラスコを合成する。それと同時にトリフルオロエトキシ基によってアキシアル位が活性化されていることを利用し,サブフタロシアニンを求電子的な反応剤として用いる。サブフタロシアニン内部はフッ素のもつ撥水撥油効果によって外界から遮断される。この空間では溶媒効果などを受けず,通常とは全く異なる反応条件で化学反応を行うことができると考えられる。まずはサブフタロシアニンに取り込める化合物の種類や大きさを検討するため,サブフタロシアニンと目的の化合物を混合し結晶化させる。X線結晶構造解析を行うことで,サブフタロシアニンに取り込める化合物の検討を行う。次にサブフタロシアニン内に取り込める基質に対し,アキシアル位に位置する化学活性種を利用した反応を行う。用いる化学種としてはトリフルオロメチル基を計画している。また,シンコナアルカロイドを有機触媒とした不斉反応としては,フッ素官能基を標的分子の特定の位置に導入する直接法とフッ素官能基を有する単純な原料を化学変換して目的の化合物を合成するビルディングブロック法の二つのアプローチから不斉合成を行う。
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