2014 Fiscal Year Annual Research Report
細胞が産生する浸透圧調節分子と人工高分子化合物を用いた細胞モデル実験系の構築
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Science for Nanomedicine |
Project/Area Number |
26107720
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (50388758)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 分子クラウディング / 核酸 / 構造 / 熱力学的安定性 / 浸透圧調節物質 / 両性イオン / 四重らせん構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内環境として最も特徴的な因子である分子クラウディングを誘起するものとして重要なのが、細胞内に高濃度に存在する浸透圧調節分子である。また細胞核内では、正電荷をもったヒストンタンパク質が高濃度に存在している。そこで本研究では細胞モデル系の構築に向けて、(1)細胞核内と(2)細胞質内の分子環境の精密化学模倣、およびその核酸構造に対する効果を検討した。 (1)細胞核内環境の化学模倣:領域内共同研究としてLysを主鎖骨格としてもち、デキストランを側鎖にグラフと重合したポリマー(PLL-g-Dex)の提供を受け、核酸構造に対する効果を定量的に検討した。その結果、PLL-g-Dexは、核酸の非標準構造であるパラレル型二重らせん構造や三重らせん構造を特異的に安定化することが示された。さらに、二重らせん構造と三重らせん構造のスイッチングを制御することにも成功した。これらの成果は、細胞核内で核酸の非標準構造が安定に存在することを示唆している。 (2)細胞質内環境の化学模倣:細胞質に高濃度に存在する浸透圧調節分子や細胞膜の親水性部位には、両性イオンのものが多い。そこで、両性イオンの浸透圧調節分子と、領域内共同研究者から提供をうけたホスホリルコリン基(細胞膜の親水性部位)を含むMPCを用いて分子クラウディング環境を惹起し、核酸構造に対する効果を定量した。その結果、両性イオンによる分子クラウディングは、核酸の標準構造である二重らせん構造を不安定化した。一方、両性イオンは、核酸の非標準構造である四重らせん構造を安定化させた。特にMPCは、モル濃度当たりの四重らせん構造に対する安定化効果が極めて高いことが示された。これらの成果は、四重らせん構造の安定化によるバイオテクノロジーやナノテクノロジーに展開できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞内の生体分子反応の化学的理解には、細胞内の分子環境を化学的に解明し、生体分子反応パラメータと細胞内分子環境パラメータの相関を解明する必要がある。本研究では、二か年のうちに、次の目標を掲げて検討を進めている。(1)天然の浸透圧調節分子と共に様々な官能基をもつ合成高分子を組み合わせて細胞質内の分子環境パラメータを系統的に変化できる実験系を構築する。(2)この実験系において、RNAの高次構造安定性と分子間反応性(分子間相互作用)を定量化する。(3)さらに本細胞モデル実験系での測定結果と、領域内の共同研究等による細胞内の測定結果を比較することで、細胞内での生体分子反応パラメータと細胞内環境パラメータの相関を解明する。 特に、研究初年度においては、上記課題(1)を中心に検討を進め、細胞質内と細胞核内の分子環境の精密模倣を達成した。さらに本模倣系を用いて、核酸構造の熱力学的安定性を定量評価することで、課題(2)の生体分子反応パラメータと細胞内環境パラメータの相関に関する知見も得られた。 以上のように、本研究課題は、当初の研究計画に従い遂行され、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度においては、研究計画の基礎となる、細胞環境の模倣系が構築できた。そこで平成27年度においては、当初の計画通りに、複雑な核酸構造に対する浸透圧調節分子やカチオン性ポリマーの効果を定量化する。。同時に、細胞モデル実験系を活用することで、細胞内でがん関連遺伝子やmRNAの発現と高次構造を同時に検出できるシステムを構築し、DNAやmRNAが形成する高次構造の生物学的役割を解明することを試みる。 平成26年度に開始した領域内の共同研究に関しても、すでに多くの学会発表などを行っている。へ一斉27年度には、このような共同研究も積極的に遂行し、「細胞内での生体分子反応パラメータと細胞内環境パラメータの相関を解明する」という最終目標の達成を試みる。
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Remarks |
研究成果の内容や論文発表、学会発表などについて発信しています。
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Research Products
(28 results)