Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
Spredは哺乳類培養細胞系において同定されたras抑制因子である。Spredのin vivoでの役割については全く知られていなかったので、当研究ではショウジョウバエSpredホモログの解析を行った。まず、ハエ培養細胞であるS2細胞を用いたレポーターアッセイを用いて、Spredがハエ細胞においてもras抑制効果を持つことを確認した。また、生体内でのSpredの効果を見るためSpredを過剰発現するトランスジェニック個体を作成した。Spredを発生途上の眼において単独で発現させても顕著な効果は得られなかったが、sensitized backgroundにおいては抑制効果が認められた。Spredは胚の筋接合部位の細胞、分化途上の光受容細胞など、本来rasシグナルの活性が高い細胞で特に強く発現していた。胚の表皮でrasシグナルを異所的に発現するとSpredの発現誘導が観察された。このことから、Spredがrasシグナルに対する負のフィードバック因子であると考えられた。実際にハエの発生においてSpredがどのような寄与をしているのかを調べるために、欠失変異体を作成した。予想に反し、この変異体は致死にはならず解剖学的な異常は見当たらなかった。Spredは中枢神経系においても強い発現が認められたことから、その神経機能における役割を検討した。Spredをすべての神経細胞で過剰発現すると、軸索走行等の細胞の形態に異常は引き起こさないが、個体として運動の著しい低下が認められた。Spredのin vivoでの機能は未だにクリアではないが、他のras抑制因子との冗長性で表現型が見えていない可能性、ras抑制以外に神経細胞においてその生理的な側面に役割を持つ可能性が示唆された。