Budget Amount *help |
¥3,300,000 (Direct Cost: ¥3,300,000)
Fiscal Year 2005: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2004: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2003: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
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Research Abstract |
当初の研究計画では採用3年目は,落葉広葉樹林が広く分布する渓流沿いと落葉広葉樹林の面積が狭い丘陵地上部で,オオムラサキ幼虫の密度,死亡率とその要因,成虫の吸汁場所を調べる予定であった。しかし1年目に行った調査により,渓流沿い落葉広葉樹林には,中洲や谷壁斜面に成立する渓畔林とその後ろの緩斜地に造成された二次林とに区分でき,両者の間で幼虫・成虫の密度が異なることが判った。このため,渓畔林と二次林がオオムラサキの個体群維持に果たす役割を明らかにする必要が生じた。そこで平成16年度より,当初の計画を変更し,山梨県北社市の大深澤川流域の渓畔林と二次林において,本種の幼虫・成虫の密度を調べ,17年度は餌植物であるエノキとエゾエノキの分布再生様式を調べた。そして,これらの結果を総合的に議論し,渓畔林と二次林がオオムラサキの個体群維持に果たす役割について考察した。エノキとエゾエノキは河川の中洲および崖崩れが生じている谷壁斜面に分布し,渓畔林を形成していた。一方,谷壁斜面後方の緩斜面に立地する二次林内や二次林と放棄水田との境界でかつて陰伐地として草刈りされていた場所にも分布した。中洲の個体は大型の径のものが多かったのに対し,二次林では径の小さい個体が多かった。これらから,エノキとエゾエノキは攪乱に依存した樹種で,渓畔林では河川による洪水や谷壁斜面の土砂崩れなど自然攪乱が再生要因となっているのに対し,二次林ではコナラ・クヌギの皆伐や陰伐地での雑草木の刈り払いとその停止などの人為的な攪乱が再生要因であると思われた。二次林では.エノキとエゾエノキは切り株から再生したクヌギやコナラに競争で負けているため小径木が多いと思われた。樹高2m未満の稚樹から幼虫が見つかる確立は,二次林,陰伐地,山腹崩壊地,中洲のいずれの場所でも極めて低かった。しかし、親木(樹高2m以上の個体)における幼虫密度は中洲で有意に高かった。中洲の渓畔林および二次林との林縁・林内での成虫密度は渓畔林縁で最も高かった。中洲の渓畔林縁では他個体を追飛する雄,川の水際の湿った石を舐める雌雄の個体が多く,交尾個体もここでのみ見られた。二次林縁や二次林内では広葉樹の樹液を吸汁する個体が多く,吸汁個体の多くは雄だった。また,二次林内では木の幹で静止する雌雄個体が他の場所よりも多かった。以上より,中洲の渓畔林縁は雌雄成虫の餌場,繁殖地,求愛場所としての役割を果たしており,幼虫の密度が中洲で最も高くなったことは,渓畔林縁における成虫の密度の高さや、餌植物のサイズが中洲で大きかったことに関係があると思われる。一方,二次林では,成虫・幼虫の密度が中洲よりも低いものの,雄の餌場,雌雄の休止場所など渓畔林にはない重要な役割を果たしていると思われた。オオムラサキの個体群維持ならびに保全には渓畔林と二次林両方の維持管理が必要であると思われた。現時点では,これらの場所の土地利用形態を改変しないことが重要であり,中洲や谷壁斜面ではエノキとエゾエノキの再生・生育場所を保存するために洪水や土砂崩れを防止する砂防ダムや堰堤を極力作らないことが重要であろう。
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