Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
平成17年度に実施した白鳳丸による中部北太平洋赤道域から亜寒帯海域までの南北断面調査で得られた試料および船上で実施した操作実験から得られたサンプルの解析を進めた。表層から深層にいたる各深度で採水された全700サンプルをフローサイトメトリー法により分析し、ウィルス、細菌およびピコ植物プランクトンの細胞数の広域分布パターンとその支配機構に関する研究を推進した。その結果、北緯40度付近の移行域においてウィルスの極大が発見され、この海域においてウィルス感染が微生物群集の多様性に大きな影響を与えている可能性が示唆された。一方、亜熱帯環流域ではウイルス数が激減した。これは同海域における低生産性と紫外線照射の影響であると推察された。中層においては、細菌数、ウィルス数、細菌生産の間に強い正の相関が検出された。海域別では、高緯度(亜寒帯海域)で高く中緯度(亜熱帯海域)にかけて低下するが、赤道海域では再び上昇するという顕著なパターンが見いだされた。このことから、沈降性の有機粒子による表層から中層への有機物輸送が細菌群集の生産を高め、それがウイルス数の増大につながっていることが示唆された。これは、中層において、沈降フラックス→細菌→ウィルスという連鎖系が駆動していることを示す初めてのデータであり、海洋の食物網と物質循環を理解するうえでの重要な知見である。一方、深層においては、細菌群集の生物量や生産とウィルスとの相関は弱く、ウィルスと細菌数の比(V:B比)が深度とともに増加する傾向が見られた。このことから、海洋深層には大量のウィルスが貯留されており、微生物群集の活性や多様性に大きな影響を与えている可能性を示唆する。これらのデータをまとめ、それを第11回国際微生物生態学会議(於ウィーン)で発表するとともに投稿論文の準備を進めた。