Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
昨年度までに、2μg/kgという用量のビスフェノールAへの曝露が、マウスの卵黄嚢におけるGPRC5B遺伝子の発現を抑制すること、そのメカニズムに胎仔の性による違いがあること、胎盤では同遺伝子の発現に影響を与えないこと、同遺伝子産物が血管網の構築に関与する可能性があることを明らかにした。そこで本年度は、遺伝子が血管新生にはたす役割を明らかにすることと、ビスフェノールAへの曝露が血管新生に及ぼす影響を明らかにすることを目的に実験を行った。血管の研究に広く用いられているヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)におけるGPRC5B遺伝子の発現をRNA干渉法により抑制し、tubular formation assayによって血管新生能への影響を調べた。GPRC5B siRNAで処理した細胞は、管腔構造を形成しなかった。このことから、GPRC5B遺伝子は血管新生に重要な働きを果たすことが示された。この結果から、ビスフェノールAへの曝露が、卵黄嚢における血管新生を抑制していることが予想された。血管内皮細胞のマーカーであるPECAM-1に対するホールマウント免疫染色を施し、血管の発達の様子を観察したところ、雄の胎仔より採取した卵黄嚢では、2μg/kgのビスフェノールAの投与群で血管の発達が有意に抑制されていることが明らかになった。一方、雌の胎仔から採取した卵黄嚢では、無処理の群に対してのみ有意な抑制がみられた。胎盤においては、血管網の発達に影響が見られなかった。これらの結果から、GPRC5B遺伝子は血管新生に重要な役割を果たしており、ビスフェノールAは同遺伝子の発現を抑制することによって、マウスの卵黄嚢における血管新生を抑制することが明らかになった。本研究の成果は、マウスの卵黄嚢における血管網の発達が、ビスフェノールAの毒性を評価するうえで有用な指標となりうることを示している。また、機能未知なオーファン受容体であったGPRC5Bが血管薪生に必須の役割を果たすという発見は、医学、薬学などの分野に広く貢献しうるものである。