Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
血管などのように流体媒質中のフレキシブルな境界面という構造は自然界において普遍的な存在である。境界面と流体媒質が相互作用しあって多彩なダイナミクスを織り成している。また、自己交差しない界面という対象自体も理論的に興味深い。界面の種々の性質と自己排除相互作用を完全に取り込んだ統計力学理論は完成されておらず、大いに研究の余地がある。このような観点から自己排除相互作用を取り入れた界面の統計力学の完成を目指し、これに関連する考察を行ってきた。界面構造に関する考察の一環として、ネットワークの統計物理学に注目した。構成要素が複雑にリンクしあったネットワークは、内部構造を持った膜・界面構造とみなせる。自然界・社会におけるネットワーク構造に関する理論的考察のひとつとして、マイノリティゲームに関する知識を界面統計力学に応用できないかを考えた。マイノリティゲームは多数決意思決定のモデル化で、環境依存的な相互作用の元での非平衡学習過程として注目されている。各プレイヤーが少数派に属することを指導原理とする繰り返しゲームなのであるが、少数派志向を物質的な見方で言うならば、構成要素間に凝集・交差を嫌うという性質が与えられているということにほかならない。とくに交通流のモデルを想定し、プレイヤーの従う確率分布が非対称な場合を考え、待ち時間の確率分布としてよく知られた片側分布である Erlang 分布に従う場合を考察した。生成汎関数の方法からアプローチし、熱力学極限においてある Gauss 雑音のもとでの一体の確率過程に帰着した。その定常状態の存在可能性を議論した。その結果、この非対称分布のもとでは自己無撞着な定常状態が存在しないことを導いた。これに関する論文の公表に向けて用意を進めてきたが、年度中の出版はかなわなかった。