Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
今年度は、本研究の第3課題「「記述史料のシステム」による修道院の記憶管理」に関する考察を行った。後述のように、最終段階で研究計画の変更を強いられたが、中世盛期の修道院組織に「記述史料を介した記憶の管理システム」を想定し、その論証に努めた本研究では、フランス・ポワトゥ地方を例に、以下のような成果を得た。まず、カルチュレールという史料に関しては、従来指摘されてきたその実務性が、「記憶の器」としての機能と相互補完の関係にあり、それ故にこの史料が土地の記憶と歴史の融合点となり、「修道院の自治」の記憶を時間的・空間的に象徴する書冊になっていたという新たな見解を提示した。次いで、カルチュレールに限らず、記述史料の編纂時には、修道院共同体の自立性を内外に訴えるような「記憶」を伝達する傾向があることを明らかにし、この「組織の安定」の追求が、記述による共同体の「記憶の管理システム」の主な機能であることを論証した。さらに、同時代の修道院思想の上に、修道院共同体の枠組を、聖俗世界を含む社会全体として発展的に解釈することで、「記述史料を介した記億の管理システム」は、理念的にときには実際的に、中世盛期の領主社会の秩序を支える基盤として認識され得たことをここで指摘した。研究成果は、2008年4月の関西フランス史研究会において、「記憶の場」としての文書庫と書冊の機能の違いという問題を取り上げた口頭発表を、6月のワークショップ西洋史・大阪では、「記憶の管理システム」の一般化に焦点を当てた口頭発表をそれぞれ行って公表した。9月以降はフランスへ渡航し、研究の完成とフランスでの研究報告の準備にあたったが、都合により当初の計画を短縮して帰国することを余儀なくされたため、公的な研究報告に代えて、L・モレル教授のセミナーにおいて研究報告を行った。
All 2008
All Presentation (2 results)