Research Abstract |
圃場における窒素動態を把握する為に,イネ葉からのNH_3放出に着目し,その生理的メカニズムについて,光合成,蒸散と光呼吸代謝との関連で検討した.昨年度確立したNH_3、放出速度(AER)の測定法を利用し,1)葉内のNH_3同化と光呼吸阻害処理がAERに及ぼす影響,2)光強度,温度,大気O_2濃度の変化がAERに及ぼす影響を調査し,以下の結果を得た. 1)アケノホシを対象に,NH_3同化酵素(グルタミン合成酵素;GS)阻害剤(MS0)と光呼吸酵素であるグリコール酸オキシダーゼ(GO)の阻害剤(HPMS)を葉面散布した.未散布の対象区,MS0区およびMS0+HPMS区において,日中のAERと葉内NH_4^+濃度を測定した.AERと葉内NH_4^+濃度は,MS0区>MS0+HPMS区>対象区の順に高かった.以上より,光呼吸由来のNH_3が葉から放出されることが明らかになった. 2)アケノホシとカサラスを対象に,異なる光強度,葉温および大気O_2濃度条件下で,AER,光合成速度(P_G)および蒸散速度(Tr)を測定した.光強度の増加に伴い,2品種のAER,P_GおよびTrは上昇した.また,葉温の上昇に伴い,2品種のAERとTrは上昇した.この時,P_Gは僅かに低下し,これは光呼吸の増大を意味する.異なる光強度と温度条件下において,AERとTrとの間には相関関係が見られた.大気O_2濃度の上昇に伴い,2品種のAERは増大したが,Trは変化しなかった.一方,P_Gは低下し,光呼吸の増大がみられた.以上の結果より,NH_3放出は蒸散作用と密接な関係をもつこと,光呼吸はNH_3放出を調節する重要な要因であることが明らかになった.強光,高温および高O_2濃度条件下でのAERは,アケノホシよりもカサラスで有意に高かった.アケノホシと比較して,カサラスの葉内NH_4^+濃度は高く,GS活性は低かった.このことから,カサラスにおいては,低いGS活性では光呼吸由来のNH_3を十分に同化できない為,AERが高くなると考えられた.このように,AERの品種間差には主として葉のGS活性の差が関与している可能性が示唆された.
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