なぜ中国の産婦人科は女医が多いのか―医療専門化と国家・ジェンダー
Project/Area Number |
09F09203
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 外国 |
Research Field |
Gender
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村田 雄二郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姚 毅 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2009 – 2011
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Project Status |
Completed (Fiscal Year 2011)
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Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 2011: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2010: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2009: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
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Keywords | 女医 / 出産 / 専門職 / ジェンダー / 専門職化 / 専門化 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1949年以後の中国の母子衛生や出産に関する政策と実施状況、医療従事者、特に女医養成の具体的状況を文献調査とフィールド調査によって解明することである。本年度は、21年度及び22年度に行った、中国の北京及び湖南省のある村での調査(1950-60年代に医療を従事していた産婦人科女医・助産師11人及び出産経験のある村の女性34人のインタビュー)資料を整理し、さらに必要な補充調査を行った。調査資料を踏まえた初歩的分析の結果は以下の通りである。(一)調査地における母子衛生、出産の近代化の情況。中国では、ほぼ建国と同時に、助産を専門とする「接生員」への訓練も始まった。しかし、調査地の二つ村は、一つは、訓練産婆も「接生員」もいなかったため、90年代半ばまで殆ど旧産婆あるいは近隣女性による家庭出産だった。もう一つは、1960年代から産婆一人を訓練したにもかかわらず、旧産婆や近隣女性による助産が多くあった。(2)2004年を境として、村ではほぼ一斉に家庭出産から病院出産に移行し、それに伴い、帝王切開による出産が異常に多かったことが判った。 その変化の要因の一つは、国家による病院出産の推進にある。2004年の『郷村医生従業管理条例』によって、今まで農村女性の出産に立ち会った近隣女性や訓練産婆は勿論のこと、郷村医者による助産も禁止された。また新生児戸籍登録に必要な出生証明書は、医師しか発行できないと規定したことで、家庭出産の道はほぼ閉ざされたのである。 (二)女医養成の具体的情況。建国初期人材の深刻な不足の中で、政府は以下の方法を講じていた。第一、民国期に養成した助産師を短期的再訓練させ医師に昇格させた。第二、建国初期は、質より数を重視し、「短期速成」を特徴とする医学教育制度を採用し、産婦人科医師を含む医師の養成を急いだ。第三、夜間大学のみならず、医科大学も、二年間の産婦人科医師専修科を設け、現場で働く中級技術人員を再訓練した。このようにして、産婦人科における女医の割合を大幅に増加させた。しかし、女医の養成・抜擢は、パラドックスが存在している。女医の養成・抜擢は「男女平等」という公式イデオロギーのいわば「看板」となっている。一方、女性の身体は男性に触られてはならないとする「男女隔離」の伝統的ジェンダー規範を暗黙の前提とし、出産領域における男性医師の存在空間を狭めていた。こうした政治目的と伝統文化との協商、あるいは近代化過程での伝統文化の流用は、社会主義中国の特質の一つと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」から分かるように、本年度も文献資料および口述資料を精力的に行い、それを踏まえた初歩的分析を行った。当初の研究目的に概ね達成したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策として二点を挙げる。第一に、地域間の比較である。出産の近代化のプロセスは、地域の文化慣習や地方政府の推進の度合いによってその状況と特徴も異なる。筆者が以前調査を行っている遼寧省Q村と今回の村とは大きく状況が異なっていることが分かった。今後、調査地をさらに拡大し、ミクロレベルの集積による類型化を図る必要がある。第二に、本研究は、聞き取り調査資料によるところが大きい。しかし、他の聞き取り調査と同様、「記憶のブレと忘却」「話者の主観による歪み」など現象も見られる。それを克服するため、聞き取り調査の方法の改善や研究者間の交流が必要である。
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Report
(3 results)
Research Products
(8 results)