Research Abstract |
本研究の目的は現代リベラリズム論の新たな理論的潮流のひとつであるリベラル・ナショナリズム論から導出される公正な多文化共生世界の構想(国際秩序構想)の輪郭を明らかにし、その知見を、国際政治学の理論との対話を試みることで、両ディシプリンの架橋可能性を探ることにある。 本年度はそのために、以下の3つのことを行った。まず、国際関係理論、特にいわゆる「英国学派」と呼ばれる議論に重要文献である次の2冊の翻訳作業である(いずれも共訳)。Linklater,A.and Suganami,H. The English School of International Relations : A Contemporary Reassessment(Cambridge : Cambridge University Press,2006)および、Shapcott,R.International Ethics : An Critical Introduction(Cambridge : Polity Press,2010)である。平成22年度中の公刊には間に合わなかったが、平成23年度中の刊行に向けて、鋭意努力しているところである。 第2に、社会正義を論じる上での社会的連帯の基盤をどこに求めるべきかという問題について、国際秩序構想との関係で論じたものとして、「分断された社会における社会的連帯の源泉をめぐって-リベラル・ナショナリズム論を手がかりに-」を発表することができた。社会的連帯の源泉をネイションに求めることの妥当性を論証し、そこから導出される棲み分け型多文化共生世界の構想の理論的な望ましさを明らかにできた。なお本論文は、第一回政治思想学会研究奨励賞を受賞した。 第3には、移民の受け入れの是非について規範的な観点から論じる試みとして、¢国境を越える人の移動に関する規範理論的一考察-リベラリズムと文化の関係性についての新たな解釈に基づいて-」を発表した。この論文では、従来のリベラリズム論では、国境開放が理論的に支持されていたが、リベラル・ナショナリズム論という新たなリベラリズム解釈からすれば、移民の受け入れについては、ある程度制限することをリベラルな観点から是認しうることを明らかにした。
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