Research Abstract |
より安全で長期使用に耐えうる歯科・生体材料として,チタン及びチタン合金の歯科医療への応用が注目されている.チタンは耐腐食性,生体適合性が高く,また低密度で高弾性率を有する.更に,金属の利点として展性・延性があるなど,様々な利点を持っている.歯列矯正用のブラケット素材は現在SUS360等のステンレス鋼が主流であるが,アレルギー体質の児童生徒の増加や,成人の審美歯科への関心増加に対応して,生体安全性の高いチタン合金やセラミックス製の矯正材料の需要も高まると考えられる.これら歯科生体材料で必ず問題となるのが耐摩耗性である.摩擦摩耗は材料の機械的性質の中で最も重要なものの一つであるにも関わらず,その評価の難しさから,材料学的研究対象になりにくい.しかし,歯科に限らず,人口関節のステム等その他の生体材料としても,チタン合金は大きな可能性を秘めている材料であり,従ってチタン及びチタン合金の摩擦摩耗挙動を知ることは重要であるといえる. 本研究では,鏡面研磨したCP Ti(純度99.5%),Ti-6Al-7Nb, SUS316LスチールのTiと摩耗挙動を,ボールオン/ピンオン方摩擦摩耗試験機を用いて調査た.摩耗試験は,純水中及び人口唾液(商品名Saliveht,帝人)中で行い,口腔内温度を想定して,310Kとした.実験条件は回転半径1mm,回転速度95.5rpm(線速度1.0cm/s),試験時間は5.4ksと21.6ksとした.また負荷荷重は100.300,500gfで行った. 摩耗試験の結果,SUS316Lの平均運動摩擦係数μは,純水中でμ=0.5,Saliveht中でμ=0.28と,異なる値を示した.一方,CP Ti及びTi-6Al-7Nbはいずれの液中でもμ=0.28-0-30と低い値を示した.荷重によるμの変動は特に見られず,本試験結果の範囲ではクーロンの法則が成立するといえる.また,摩擦による重量変化について,荷重300gf,21.6ksで試験を行ったが,Saliveht中のCP Tiを除き,Tiボールよりも試料の摩耗が顕著であった.試験後の摩耗表面を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)及び分析走査電子顕微鏡(SEM-EDX)で観察した.Ti-6A1-7Nb及びCP Tiの摩耗表面ではボール側のTiが凝着の有無は不明であるが,SUS316Lの場合,純水及びSaliveht中ともに試料表面にTiの凝着が顕著であった.更に,試料表面には,Oも大量に固溶あるいは酸化物として含有されている.主にOが多量に検出される部分では,Feの検出量の方がTiのそれより高めであり,おそらくは鉄酸化物相と考えられる.Tiボールの表面にもFe, Cr, Niなどのステンレスの成分が凝着していた.さらに,Saliveht中では,液中の成分,特にP, Ca等も含まれていた.実際に臨床で用いられる矯正ブラケットの摩擦部には,未知の表面生成物が出来ているという報告があり,この場合も,本試験と同様な唾液成分とメタル,Oとの複合化合物が形成されていることが示唆された.そこで,Salivht中で試験した試料の摩耗表面生成物を同定するため,透過電子顕微鏡による構造解析を試みた.しかし,現段階では試料作成に成功しておらず,電解研磨,イオンミリング,微少領域イオンポリッシング(PIPS)等,様々な方法で透過電子顕微鏡試料作成を試みている段階である. なお,本研究結果は2002年日本金属学会春期大会(3月)で発表する.
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