研究領域 | 植物と微生物の共創による超個体の覚醒 |
研究課題/領域番号 |
21H05151
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
峯 彰 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80793819)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
32,760千円 (直接経費: 25,200千円、間接経費: 7,560千円)
2023年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2022年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2021年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
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キーワード | 気孔 / 細菌 / 環境適応 / 超個体 / 機械学習 / 植物微生物相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
植物は、葉の表面に存在する気孔の開度を調節することで光合成に必要なガス交換と乾燥への適応を両立し、かつ、蒸散による全身的な物質転流の駆動力を生み出している。気孔の開閉制御を介したこれらの環境応答はこれまで植物の個の力として捉えられてきた。これに対して、本研究では、葉の内部に棲息する細菌が気孔開閉を操作する能力を有するという独自の発見に立脚し、その分子機構を解明するとともに、葉圏細菌が気孔を介した植物の環境適応において果たす役割を究明する。また、これらの研究計画を強力に推進するツールとして、非破壊的な気孔観察デバイスと画像処理による気孔開度の自動定量技術を開発する。
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研究実績の概要 |
本年度は、葉に棲息する細菌(葉圏細菌)による気孔開閉の分子機構の解明を目指した。葉圏細菌の一種であるPseudomonas syringaeは閉じた気孔を再開口することで植物内部へ侵入する。我々は、P. syringaeが気孔開口を誘導するために利用する植物側の遺伝子を同定した。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、P. sryingaeによるこの遺伝子の発現誘導に必要なシス配列を突き止めた。また、同定したシス配列がP. syringaeによる気孔開口に必要であることを示すために、ゲノム編集によるこのシス配列への変異導入を試みた。複数のガイドRNAを試し、数十の形質転換ラインを得たが、いずれのラインでも当該シス配列への変異導入は認められなかった。 昨年度に取得した葉圏細菌コレクションのなかから、P. syringaeと同様に気孔開口を誘導する系統を複数発見した。加えて、菅平高原に自生するアブラナ科のハタザオから単離された細菌7系統を新たに取得した。これらの系統の中にも気孔開口を誘導する系統が複数見つかった。そのなかで、シロイヌナズナに対して病原性を示さないPseudomonas paralactis(Ppr)に着目して解析を進めた。Pprのゲノム配列を決定し、気孔開口能を有するP. sryingaeの複数系統との比較ゲノム解析を行ったところ、Ppr はP. sryingaeが有する気孔開口誘導因子を持たないことが明らかとなった。さらに、Pprは、P. sryingaeによる気孔開口が起こらないシロイヌナズナ変異体においても気孔開口を誘導することを突き止めた。 昨年度に引き続き、気孔開度の自動定量技術開発を進めた。気孔観察装置を用いて撮像したシロイヌナズナ葉の画像を教師データとしてモデルを再学習させ、同装置で撮影した画像の気孔開度推定が可能なアルゴリズムの構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
P. syringaeによる気孔開口に必要な植物側の遺伝子を同定できた。ゲノム編集を利用したシス因子への変異導入はうまくいかなかったため、P. syringaeによる植物遺伝子の発現制御が気孔開口に必要であることの証明には至らなかった。しかし、この仮説は、シロイヌナズナ変異体を使った相補実験を通じて検証できると考えている。一方、気孔開閉能を有する細菌を多数発見できたのは大きな成果である。特に、PprがP. syringaeとは異なる仕組みで気孔開口を誘導すること突き止めたことで、細菌による気孔開口誘導の新たなメカニズムの解明への糸口をつかんだ。また、懸案であった気孔開度の自動定量技術の開発にも成功した。これにより、葉圏細菌による気孔開閉の観察をハイスループットに進めることができるようになり、本研究は大きく進展すると期待される。以上より、本研究は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
P. syringaeによる植物遺伝子の発現制御が気孔開口に必要であることの証明を目指し、引き続きゲノム編集を用いたアプローチを進めるとともに、標的植物遺伝子を欠損したシロイヌナズナ変異体を利用した相補実験を進める。さらに、葉圏細菌による気孔開閉制御の仕組みと植物の生長に与える影響を明らかにする。気孔開口を誘導するために必要なPprの遺伝子を同定するために、トランスポゾン変異体ライブラリを作出し、本研究において開発した気孔観察装置と気孔開度自動測定アルゴルズムを駆使して、気孔開口能を失ったPpr変異体のハイスループットスクリーニングを行う。同定した変異体におけるトランスポゾン挿入位置を特定し、原因遺伝子を突き止める。加えて、Pprの野生型と気孔開口能を失った変異体を植物に接種し、様々な環境条件における植物の生育を比較することで、Pprによる気孔開口が植物の生育・環境適応に与える影響を明らかにする。一方、気孔開閉能を示すその他の葉圏細菌についても、ゲノム配列の決定、P. sryingae系統群やPprとの比較ゲノム解析等を進め、葉圏細菌による気孔開閉制御機構の多様性と普遍性に迫る。
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