配分額 *注記 |
11,300千円 (直接経費: 11,300千円)
1991年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
1990年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1989年度: 4,300千円 (直接経費: 4,300千円)
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研究概要 |
歯周病原性細菌の1つであるPorphyromonas gingivalis感染実験マウスを確立した。同感染マウスの血清および唾液中には、P.gingivalis菌体表層抗原である線毛タンパク抗原に対する抗体価をELISA法により測定した。その結果、非感染群のそれに比べて血清中ではIgGクラスの抗線毛抗体価の上昇が著明に認められた。また唾液中ではIgAついでIgGの順に同特異抗体価の上昇が認められ、IgA抗体価の上昇は血清中のそれを上回った。しかしながら、IgM抗体価については実験期間中を通してほとんどその上昇は認められなかった。また、P.gingivalis感染マウスの末梢血,脾臓,小腸の粘膜固有層や腸管膜リンパ節に抗線毛抗体産生細胞がみられた。 P.gingivalis線毛を皮下ならびに経口投与したマウスの特異免疫応答性について検討した。その結果、皮下投与群の血中における抗線毛抗体濃度は、初回免疫後5日目にIgM、ついでIgGクラスの上昇がそれぞれ認められた。追加免疫を行うと、IgGクラスの特異抗体濃度の著しい上昇がみられた。また、唾液中ではIgGならびにIgAクラスの特異抗体濃度の上昇がみられ、追加免疫後も、同クラスの特異抗体濃度の著明な上昇が認められた。経口投与群の血中における抗線毛抗体濃度は、皮下投与群のそれには及ばなかったが、IgMついでIgGクラスの特異抗体濃度の上昇がみられた。一方、追加免疫後血中のIgG抗体の上昇がみられ、そのレベルは皮下投与群に比べて有意に高いものであった。また、唾液中においても、特異IgA抗体の明確な上昇がみられた。皮下投与群の脾臓,循環血,上腕リンパ節,頸部リンパ節,顎下腺および耳下腺に抗線毛抗体産生細胞がみられた。特に、脾臓,循環血,上腕リンパ節,頸部リンパ節の免疫グロブリンクラス別の特異抗体産生細胞数の経日的変化は、血中の特異抗体濃度のそれと同様のパタ-ンを示した。一方、顎下腺ならびに耳下腺には、特異IgA産生細胞のみが認められた。経口投与群の脾臓,循環血,腸間膜リンパ節,小腸粘膜固有層,顎下腺および耳下腺に抗線毛抗体産生細胞がみられた。脾臓,循環血では、主としてIgG、腸間膜リンパ節ではIgAおよびIgG、小腸粘膜固有層、顎下腺および耳下腺ではIgAの各クラスの特異抗体産生細胞が認められた。なお、これらP.gingivalis線毛免疫マウスでは、P.gingivalis菌体の口腔内への定着を抑制することが示された。 歯周病患者の歯肉組織を酵素処理し、歯肉のリンパ球を分離・調製する方法を開発した。成人性歯周炎、特に病態の重度の患者の歯肉リンパ球における非特異的抗体産生細胞数をELISPOT法を用いて算定すると、IgG>IgA>IgMの順に多かった。また、免疫グロブリンのIgGサブクラス別について検討すると、IgG1>IgG2>IgG3≧IgG4であり、IgAのそれは、IgA1>IgA2であった。つぎに、P.gingivalis線毛抗原に対する特異抗体産生細胞をELISPOT法を用いて算定する方法を確立した。その結果、免疫グロブリンクラス別ではIgG>IgA>IgMの順に多く、成人性歯周炎の病態が悪化するとともに、その特異抗体産生細胞数も増加する傾向を示した。さらに、免疫グロブリンのサブクラス別ではIgG4ならびにIgA1がそれぞれ多数を占めた。 歯周病患者歯肉中の単核球細胞(GML)の培養上清中に明確なインタ-ロイキン(IL)ー5やILー6およびTGFーβ産生を認めたが、ILー2やILー4産生はみられなかった。また、健常者の末梢血単核球細胞にGMC培養上清を加え培養すると、IgG>IgA>IgMの順に抗体産生細胞数が増加し、GMC培養上清中に抗体のクラススイッチ誘導因子が存在することを明らかにした。 以上の結果から、歯周病の最も有力な病原因子として示唆されているP.gingivalisと成人性歯周炎との関係を細菌学的・免疫生物学的観点から、アラバマ大学のJ.R.McGhee・H.Kiyono両博士との国際共同研究によりその一端を解明し、併せて動物実験モデルから歯周病ワクチンの開発に必要な基礎的な所見を与えるものと考える。
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