研究概要 |
真菌は一般に胞子から菌糸へと成長するの従って,著しく形態を変化させる。この形態の変化は細胞壁の骨格多糖,特にキチン及びβーグルカンの化学構造変化が関与するものと考えられる。本研究は真菌胞子並びに菌糸細胞壁構成成分の化学分析及び細胞壁を構成するアルカリ可溶性のβーグルカンの分子講成につき検討し,胞子と菌糸との違いを明らかにすることを目的とした。又胞子発芽の際のエネルギ-源として利用されるトレハロ-スの分解に関与するトレハラ-ゼの性質について検討した。 糸状菌NeurosporaとrassaIFoー6068株より菌糸並びに胞子を調製し、凍結乾燥試料とした。試料より熱水及びアルカリの濃度を変化させることにより段階的に多糖を抽出した。以下熱水抽出画分(F1),1規定NaOH抽出画分(F2),3規定NaOH抽出画分(F3)及び残査(F5)に分画した(但し酢酸抽出画分(F4)については収量が極端に少なく以後分析は行なわなかった。)。F1画分の中性糖分析の結果,菌糸,胞子共にアンノ-ス,ガラクノ-スを主成分とするヘテロ多糖よりなることが明らかになった。胞子は菌糸と比較してヘテロ多糖の含有量が2分の1と少ないことがわかった。F2画分をさらにセファロ-スーCLー6Bによるゲルミア過にて分画し,アルカリ可溶性βーグルカンを調製した。このグルカンの分子量を,胞子及び菌糸よりとった試料で比較すると,細胞が胞子から菌糸へと形態形成が進行するに従い,分子量の低下が観察されると同時に分子種の多様化がみられた。すなわち胞子におけるアルカリ可溶性βーグルカンの分子量は23万とものと13万の2分子種が主として存在し,細胞の成長が活発となる対数増殖期の菌糸体においては,13万の分子量をもつβーグルカンを主として,他に23万,6万,1.7万の4分子種に多様化した。これらの結果は,糸状菌Neurospora Crassaの形態形成に細胞壁βーグルカンが深く関与していることを示している。
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