研究概要 |
ラット褐色細胞腫由来のPC12細胞に神経成長因子(NGF)を作用させると、核では30kDa核タンパク質のリン酸化が促進される。このタンパクについて検討した。1.化学的性質:等電点pH10以上、ヒストンH1との結合性が強く、SDSーPAGE,GFCでは両者は解離しない。リジン,アルギニン,ヒスチジンは各々7.8%,7.1%,7.2%(分子数比)で、Nー末端アルミノ酸配列は粘菌のリボソ-ムタンパク質L2(リボソ-ムのペプチジル転移酵素の活性発現に必要な因子)のNー末端2番目から30番目の配列と20残基が同じで、発芽酵母のリボソ-ムタンパク質、KD4のNー末端より28番目までの配列と18残基が同じであった。2.抗体の作製、免疫細胞化学、免疫組織化学:核タンパク質を電気泳動後染色し、必要な部位を切り出し、マウスに免疫した。抗体産生後、脾細胞とNSー1細胞を融合させクロ-ニングした。間接免疫蛍光染色によりPC12細胞,ラットのアストロサイト,ラット副腎随質,上頸部神経節,脊髄後根神経節は染色されたが、顎下腺,心臓,肝臓,脾臓,腎臓,筋肉では陰性であった。PC12細胞,アストロサイトでは、核周囲部が染色される細胞が大部分で弱いけれども同時に核内が染色されるものもあった。ポリクロ-ン抗体では、多数の細胞が核内に明瞭に染色された。エピト-プあるいは細胞周期等による差が考えられる。脳では酵素抗体法(蛍光染色では非特異的吸着が強い)により、小脳のプルキンエ細胞と少数の大脳皮質の細胞が染色された。NGF処理PC12細胞では、対照のPC12細胞に比べて明らかに強く染色された。EGF(PC12細胞に対し30kDa核タンパク質のリン酸化及び分裂促進作用をもつ)では、染色性に差は認められなかった。 クロ-ニングした抗体が認識する抗原は、神経冠由来細胞あるいは組織に特異的に発現し、PC12細胞の分裂と分化に何等かの関わりがあるものと考えられる。
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