研究概要 |
本研究計画では,消化管壁内にあり直接平滑筋や腺細胞を支配する壁内神経と,これを支配する上位の外来性自律神経との関係性を明らかにすることを主な目的とした。この研究目的を達成する過程で,アウエルバッハ神経の個々の細胞形態や神経叢内での外来神経の走行様式など,形態学的な側面を明らかにする必要性が生じた。また外来性感覚神経終末に存在する神経伝達物質の候補である,サブスタンスPやヒスタミンの役割も検討された。本研究計画の基ずく研究業績の学会発表は,研究計画自体が2年間と短かかったため,その多くが平成3年度から4年度にかけてなされ,誌上発表はそれ以降にもずれ込んでいる。以下に研究計画の発表過程を追って記載する。 (外来神経温存標本の確立) 外来神経を温存したままアウエルバッハ神経の細胞内電位を記録することはこれまで報告されていなかった。このため田村と桑原および,Shemannは,平成2年度にホ-ヘンハイム大学(Stuttgart,Germany)にて,それぞれ骨盤神経と結腸,迷走神経と胃の神経結合を温存した標本の作製手技と,記録用チャンバ-を開発した。 (外来神経の壁内走行形態の分析) 外来神経は腸管壁内でアウエルバッハ神経叢内を走行する。このため外来神経性入力と内在神経からの入力を区別するために,外来神経の壁内走行を明らかにする必要があった。そこで平成2年度に東海大学(神奈川県,伊勢原市)にて田村とSchemannの大学院学生であるMs.Heidi Kayserは胃及び下行結腸のアウエルバッハ神経叢での迷走神経および骨盤神経の走行を明らかにする実験を行った。 (神経細胞形態の解析) アウエルバッハ神経細胞の細胞形態の研究は,実験のすべての時期において行われた。田村はモルモットの直腸と下行結腸を担当し,SchemannとMs.Kayerは胃を担当した。平成2年度では蛍光色素であるルシファ-イエロ-を用いて,胃及び結腸のアウエルバッハ神経の形態分析を行った(田村,桑原,Kayer)。平成3年度後半ではより細胞内での移動性の高いneurobiotinを用いて胃及び下行結腸の神経細胞形態の分析を行った(田村,Schemann)。直腸神経細胞の形態とその電気生理学的特徴の関係性は,平成3年度にWoodとオハイオ州立大学(Columbus,USA)で最終検討を行ったのち,米国生理学会雑誌に発表された。また胃及び下行結腸での細胞形態の検討は現在(1992,3)田村,Schemann,Woodの三者で東海大学にて投稿準備中である。 (外来神経性入力の検討) 田村とSchemannは平成2年度以降,それぞれ開発した手技と記録用チャンバ-を用いて,日本とドイツで外来性神経からのアウエルバッハ神経への入力様式を検討した。その結果迷走神経と骨盤神経の二つの副交換神経はいずれもアセチルコリンを神経伝達物質とし,ニコチン様受容体を介するFastーPostsynaptic Potentials(FastーEPSPs)をアウエルバッハ神経に生じることが判明した。さらに下行結腸ではこのFastーEPSPs一つの軸索しかもたない単極細胞にのみみられ,複数の軸索を持つ多極細胞,すなわちDoigel II型の神経細胞には存在しないことが明らかになった。これらの研究結果は現在(1992,3)投稿準備中であり,日本生理学会総会(1992,4)とFASEB(Federation of American Societies of Experimental Biology:1992,4)で発表予定である。 (壁内神経調節物質の検討) 壁内神経調節物質(Neuromodulator)の検討は,サブスタンスPとヒスタミンを中心に小腸アウエルバッハ神経を用いて行われた。桑原と田村は平成2年度に,田村とWoodは平成3年度にそれぞれ異なるサブスタンスPの拮抗剤の検討を行い,結果をそれぞれNew York Science Academy(1990,9)及びFASEB Summer Conference(Copper Mountain,Colorado,USA)にて発表した。また田村,桑原,Woodは内因性のヒスタミンの持つ神経調節機構を検討し(1991,3)これを欧文論文にて発表した。
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