研究概要 |
先に我々は,1983年以前に本邦で分離されたC型インフルエンザウイルスの性状を調べ,多数の抗原変異株が共存しているものの,その中に特に拡がり易い変異株が存在することを示し,C型ウイルスも多少なりとも免疫による選択を受けている可能性が強いことを指摘した。本研究では,この考えの真否を明らかにする目的で,HE蛋白の抗原構造の解明を試もると共に,最近のC型分離株の抗原性と遺伝子構造を比較した。以下にその成績を要約する。 1.37個の抗HE単クロ-ン抗体を用いて抗原地図の作製を試みたところ,HE分子上にはあわせて9個の抗原領域(Aー1〜Aー4,Bー1〜Bー5)が存在し,中和抗体の産生に与るエピト-プはAー1〜Aー4の4つの領域に分布していることが明らかになった。そこで中和エピト-プをHE蛋白のアミノ酸配列上に位置付ける目的で,Aー1〜Aー4を認識する抗体との反応性を欠く変異株を分離し,HE遺伝子の塩基配列を決定することで変異部位を同定したところ,Aー2こそ367番めと離れて位置していたが,Aー1,Aー3,Aー4に属するすべてのエピト-プが178〜283番めの約100個のアミノ酸から成る中央部に密集していることが明らかになった。興味深いことにこの領域は,分離株間の比較から推定された可変領域の1つに一致していた。C型ウイルスも免疫による選択を受けていることを支持する成績と言える。 2.1988年6月から1990年5月にかけて山形市内で分離された16株のC型ウイルスの性状を比較したところ,7株が1981年に愛知県で分離された愛知/1/81株に似ており,残りの9株は同じ年に山形県の乳児院で分離された山形/81株に酷似していることが明らかになった。従って当該期間では,2つの系統のウイルスが免疫による選択もしくはその他の機序によって選び出され,主流を形生するに至ったと推測される。
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