研究概要 |
まず宮崎県幸島の群れを対象に,人為的に餌を投与して,年齢と社会的地位に基づくその取り込み過程を調べた。同量の餌を1回に投与した場合と複数回に分けて投与した場合に,成長期にある4歳では,複数回に分けたほうが総取り込み量が多かった。これは,頬袋貯蔵量や消化速度などが成体より少ない(遅い)ためらしい。自然環境では,小さなパッチで少しずつ採食するにの適している。このような採食方法は成体と競合することが少なく,未成体に適した採食戦略を可能にする。一方,成体雌では,上位の上は常に取り込み量が多いが,上位の下,下位の上・下は,投与のしかたによって,必ずしも総量を大きくする採食方法を採ってはいなかった。自然環境における食物の分布と人為的なそれとは宰なり,とくに上位の下と下位の上は適切な採食戦略の転換ができないことを示していた。実際,幸島では,上位の下の繁殖成功度が他よりも低い。 次に大分県高崎山の大型餌づけ個体群を対象に,主として1971年以降の人口学的資料と投与餌量の分析を行った。 総採食量の3分の2(上位雌)ないし2分の1(下位雌)を投与餌に頼っている高崎山では,用与餌量の変化が出産率に直接的影響を及ぼしていることが分かった。出産率は社会的地位によって著しく異なる。下位個体は自然食物の採食時間を延ばし,採食速度を上げて代替戦略を採ることにより,総摂食エネルギーを補充しているが,上位個体には追いつけないでいる。 これらの結果を基に,屋久島の常緑広葉樹林から東北の積雪地帯まで,さまざまな環境に生息するニホンザルの行動と社会構造から見た地域個体群モデルをつくり,環境との関係を検討した。
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