研究概要 |
鶏精子の凍結保存技術を実用化する目的で,筆者が米国留学中に暫定的に作成したトレハロ-ス新希釈液(HS)の改良を試みた。Hepes Bes,グルコ-ス,ソルビト-ルを含む液を基本液とし,その液に加えるトレハロ-スの濃度について検討した。その結果,トレハロ-ス0.26M添加の希釈液で凍結処理した精子が最も高い運動性,呼吸活性を示し,融解精液精漿の乳酸脱水素酵素(LHD)活性は最も低い値を示した。次に,310〜400nOsmまでの種々の浸透圧に調整したHSを用いて錠剤化凍結し,融解精子の運動性及び融解精液精漿のLDH活性を測定した。HSの至適浸透圧は370mOsmであることが明らかになった。また,pH6.6〜7.8までに調整したHSを用いて精子を凍結保存した結果,HSの至適pHは7.2であることが判明した。更に,HSに添加するグリセリンの最適濃度を明確にするために,最終濃度で4〜15%までの色々な濃度のグリセリンを添加したHSで精子を凍結保存し,融解精子の生理的および生化学的性状を比較検討した。その結果,HSに添加するグリセリンの至適濃度は,9%であると推定された。次に,1日に数回採取した精液を浸透圧370mOsm,PH7.2のHSに9%のグリセリンを添加した希釈液で凍結保存し,採精頻度と精液の耐凍能との関係を調べた。数回採精した時の後の精液ほど耐凍能は高いが,その耐凍能を高くしている要因に精漿成分の変化は関係しないことが明らかになった。そこで,精子の耐凍能に凍結時の精子密度の違いが関与するか否かを検討した。後に採取した精子ほど高い耐凍能を示した原因は,凍結時における精子密度が深く関係することが明確になった。これらの実験結果から,基本液に0.26Mのトレハロ-スを加え,浸透圧を370mOsmに,PHを7.2に調整したHSを用い,これに最終濃度で9%のグリセリンを添加して,低濃度の鶏精子を凍結すると,新鮮精液の受精能にほぼ等しい凍結精液が作成出来ることが判明した。
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